理化学研究所(理研)開拓研究所のステファン・ウルマー 主任研究員(Ulmer基本的対称性研究室)を研究代表者とする欧州原子核研究機構(CERN)の国際共同研究グループ「BASE実験グループ」は、反陽子[1]を閉じ込めたトラップをトラックに乗せ、輸送することに世界で初めて成功しました。
実験グループは、可搬型の極低温ペニングトラップ[2]に92個の反陽子を閉じ込め、これを反陽子減速器から切り離してトラックに乗せ、CERNの主要サイト内を移動した後、実験を行ったところ、実験を継続することができました。
この研究の最終的な目標は、反陽子の生成が可能な世界で唯一の施設であり、スイス・ジュネーブからフランスとの国境にまたがるCERNの「反物質[1]工場」から反陽子を運び出し、ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学デュッセルドルフなど、欧州の遠く離れた研究機関へ輸送することです。CERNの反物質工場の近くでは磁場が揺らいでおり、これが反陽子の性質の超高精度測定を阻んでいます。そこで、磁場環境が安定している場所へ反陽子を物理的に輸送し、超高精度測定の実現を目指しています。
詳細については、CERNウェブサイトのプレスリリース(英語)をご参照ください。
関係者のコメント
小谷 元子 所長(理研 開拓研究所)
BASE 実験グループは、反陽子の輸送という画期的な実験に成功しました。この成果は、これまで進めてきたバリオン非対称性※の起源解明に向けた大きな一歩と言えます。本共同研究が今後さらに発展していくことを期待しています。
- ※現在の宇宙には物質ばかり存在し、反物質が消えてしまっていること。
クリスチャン・スモーラ 研究員(BASE-STEPリーダー)
反陽子輸送のためのBASE実験「BASE-STEP」の目的は、反陽子を捕捉し、反物質工場から捕捉装置を切り離して、CERN内の専用施設や、ハインリッヒ・ハイネ大学デュッセルドルフ、ライプニッツ大学ハノーバーなどの精密測定研究施設へ輸送することです。これにより、反物質工場内では達成不可能な極めて高い精度の反陽子の性質測定が可能になります。
反物質を輸送するトラック
補足説明
- 1.反陽子、反物質
反粒子は粒子と同じ性質を持つが、電荷と磁気モーメントの符号は反対である。正の電荷を持つ陽子の反粒子は負の電荷を持つ「反陽子」である。「反物質」は反粒子からできている物質である。 - 2.ペニングトラップ
荷電粒子を捕獲する装置で磁場と電場から構成され荷電粒子の質量や磁気モーメントの高精度測定に用いられる。
