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2026年3月16日

理化学研究所
高輝度光科学研究センター
株式会社ディーアンドエス
株式会社エイアールテック
株式会社MIST

単一チップ上に集積化されたX線エネルギー検出センサー

-放射光計測から分析・検査まで性能向上に貢献-

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター制御情報・データ創出基盤グループの初井宇記グループディレクターら、高輝度光科学研究センター、株式会社ディーアンドエス、株式会社エイアールテック、株式会社MISTの共同研究グループは、電荷増幅アンプとシリコン・ドリフト検出器(SDD)[1]を単一チップ上に集積(モノリシック集積)する技術を世界で初めて実現しました。さらに本技術を基盤として、30素子を集積したセンサー「mxdCMOS」を開発しました。本センサーは、多素子SDDとしては世界最高となる単位面積当たり計数率(カウントレート)[2]77Mphotons/s/cm2[2]を達成しています。

大型放射光施設「SPring-8」[3]では、SDDを使用してナノメートル(10億分の1メートル)レベルで元素やその化学状態の分布を可視化できます。今回開発したmxdCMOSは、SDDの性能を大幅に向上させることで、マッピングの高精細化や、より微量な元素・化学状態の検出を可能にするなど、測定精度の向上に貢献すると考えられます。

また、SDDは放射光施設に限らず、X線・電子線分析装置や半導体・電池製造工程における検査装置など、幅広い分野で利用されています。本技術により、これらの用途においても計測効率および測定精度の向上が期待されます。

本研究は、放射線計測分野における国際学術誌『IEEE Transactions on Nuclear Science』オンライン版(2月24日付)に掲載されました。

高密度モノリシックX線エネルギー検出センサー「mxdCMOS」の図

高密度モノリシックX線エネルギー検出センサー「mxdCMOS」

背景

SPring-8などの大型放射光施設における計測では、X線の光子エネルギーを識別できるシリコン・ドリフト検出器(SDD)が重要な役割を担っています。SPring-8からのX線を試料に照射すると、試料から試料内の元素の種類やその結合状態に対応した光子エネルギーのX線(蛍光X線)が放出されます。この試料から放出される蛍光X線の各エネルギー成分の強度(光子数)をSDDで測定することで、元素分布や化学組成をナノメートルレベルで解析することが可能です。

近年、放射光源および光学系の高度化に伴い、試料に照射されるX線の強度は大幅に増加しています。その結果、より高い計数率のSDDが求められています。

そこで、複数のSDDを高密度に配置することにより計数率の向上を図る研究が進められてきました。しかし、SDDと外部に設置される電荷増幅アンプを接続する配線が制約となり、小型のSDDを高密度に配置することが困難でした。

研究手法と成果

共同研究グループは、半導体チップ内に回路層とセンサーを一体形成できるSOI(Silicon-On-Insulator)センサー技術に着目しました。本SOIセンサー製造技術は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)とラピスセミコンダクタ株式会社が共同開発し、その後、理研も参画してX線用途向けに改良を重ねてきたものです。本研究では、このSOIセンサー技術をさらに発展させ、これまで実現が困難であったSDDと電荷増幅アンプを単一チップ上に統合する技術を実現しました。これにより、SDDと電荷増幅アンプを外部配線で接続する必要がなくなり、SDDの高密度集積が可能となりました。

本研究では、1.8mm四方の小型SDDを30素子配置したセンサー「mxdCMOS」を設計・製造しました。本センサーでは、各SDDの中央部に微小な電荷増幅アンプを配置し、その出力を周辺回路でさらに増幅して出力パッドへ伝送する構成としています。これらの機能はすべて単一チップ内に集積されています(図1)。

mxdCMOSセンサーの図

図1 mxdCMOSセンサー

  • (左)mxdCMOSセンサーの配置概要図。各SDDの中央部に配置された電荷増幅アンプは微小であり、本図では視認できない。10.8mm x 9mmの領域に30素子が形成されており、周りには高電圧端子、出力信号などの端子などが配置されている。
  • (右)製造されたmxdCMOSセンサーユニットの外観。30素子の搭載されている領域が中央の黒い部分。

本センサーにおいて、信号処理時間を130ナノ秒(ns、1nsは10億分の1秒)に設定し、X線の光子エネルギー分解能[4]を評価したところ、光子エネルギー5.9キロ電子ボルト(keV、1keVは1,000電子ボルト)のX線に対して半値全幅(FWHM)[4]170eVを達成しました。これは、高計数率動作に必要な短い信号処理時間条件下においても、優れたエネルギー分解能が維持されていることを示しています。

次に計数性能を評価した結果、mxdCMOSセンサーは入力強度約75Mphotons/sで飽和することが分かりました。これは単位面積当たり77Mphotons/s/cm2に相当し、多素子SDDとして世界最高の性能です。また、入力強度約30Mphotons/sまでの範囲で良好な線形応答[5]を維持することを確認しました(図2)。

mxdCMOSセンサーの入力強度と出力強度の関係の図

図2 mxdCMOSセンサーの入力強度と出力強度の関係

入力強度約75Mphotons/sで飽和し、約30Mphotons/sまで線形応答を維持する。Mphotons/s:million photons per second(毎秒100万光子)。

これにより、高強度放射光条件下においても高精度な定量測定が可能であることが示されました。

今後の期待

本研究ではセンサー開発にとどまらず、実利用可能な検出システムの構築まで行いました。そのため、SPring-8におけるオペランド測定[6]X線吸収微細構造(XAFS)[7]解析、半導体・電池材料研究で求められる微量元素分析、高速元素マッピングなどの放射光実験に直ちに導入することが可能です。これにより、測定時間の大幅な短縮や実験効率の向上が早期に実現できることが期待されます。

現在SPring-8では、既存技術で作成された非集積SDDが7個搭載された実験システムが稼働中です。本研究のmxdCMOSセンサーを12個並列配置した場合、この既存実験システムと比較して、約50倍の計数率が得られます。これにより、現状6時間を要する広範囲の元素マッピングがmxdCMOSセンサーによって約7分まで短縮できると考えられます。さらに、化学反応のリアルタイム追跡においても、約50倍短い時間間隔での測定が可能となることで、これまで観測が困難であった高速現象の追跡が可能になると期待されます。

本センサーを利用した検出システムの高性能化に向けて、素子境界で生じる弾道欠損[8]を補正する高度信号処理技術の開発を進めます。これにより、素子間で発生する信号の不均一性を低減し、高計数率環境下においても安定したエネルギー分解能と高い定量精度を実現することを目指します。

また並行して、素子の量産化を進め、先端放射光分野へ広く展開するとともに、半導体・電池製造工程における高精度検査や分析装置への応用も図ります。これにより、放射光計測技術の高度化と産業分野への波及を同時に推進していきます。

補足説明

  • 1.シリコン・ドリフト検出器(SDD)
    入射したX線の光子エネルギーを高い分解能で測定できる半導体検出器。内部の電場構造により生成された電荷を中央の読み出し電極へ効率的に集めることで、低ノイズかつ高速な計測が可能である。放射光実験や元素分析装置などで広く用いられている。SDDはSilicon Drift Detectorsの略。
  • 2.計数率(カウントレート)、Mphotons/s/cm2
    計数率は単位時間当たりに検出できるX線光子の数。単位はcps(counts per second)やphotons/sで表される。計数率が高いほど、短時間で多くのデータを取得できる。センサー技術の性能指標としては、単位面積当たりの計数率が重要で、単位はphotons/s/cm2などが用いられる。Mphotons/s/cm2は「1平方センチメートル当たり毎秒100万光子」を意味する。
  • 3.大型放射光施設「SPring-8」
    理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する細くて強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外線から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光が得られるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。
  • 4.エネルギー分解能、半値全幅(FWHM)
    エネルギー分解能はX線のエネルギーをどれだけ正確に識別できるかを示す指標。半値全幅はピーク幅を表し、この値が小さいほどエネルギー分解能が高い。本研究では5.9keVのX線に対して170eVを達成している。FWHMはFull Width at Half Maximumの略。
  • 5.線形応答
    入力強度に対して検出器の出力強度が比例関係を保つ性質。線形応答が維持されている範囲では、定量的な測定が正確に行える。
  • 6.オペランド測定
    試料が実際に動作している状態(反応中・充放電中など)でその構造や状態を測定する手法。材料開発やデバイス研究において重要な解析方法。
  • 7.X線吸収微細構造(XAFS)
    X線吸収スペクトルの微細な構造を解析する手法。元素の化学状態や局所構造を調べることができ、触媒反応や電池材料、半導体材料の研究などに用いられる。XAFSはX-ray Absorption Fine Structureの略。
  • 8.弾道欠損
    検出器の信号処理時間が短い場合に、信号が十分に形成される前に読み出されることで、X線エネルギーが過小評価されてしまう現象。これによりエネルギー分解能が低下する。

共同研究グループ

理化学研究所 放射光科学研究センター
初井 宇記(ハツイ・タカキ)
東末 敏明(トウスエ・トシアキ)

高輝度光科学研究センター 研究DX推進室
工藤 統吾(クドウ・トウゴ)
(理研 放射光科学研究センター 客員研究員)
小林 和生(コバヤシ・カズオ)
(理研 放射光科学研究センター 客員研究員)

株式会社ディーアンドエス
倉知 郁生(クラチ・イクオ)

株式会社エイアールテック
今村 俊文(イマムラ・トシフミ)
大本 貴文(オオモト・タカフミ)
前田 智晃(マエダ・トモアキ)

株式会社MIST
松田 祐二(マツダ・ユウジ)

原論文情報

  • Togo Kudo, Ikuo Kurachi, Takafumi Ohmoto, Toshifumi Imamura, Tomoaki Maeda, Toshiaki Tosue, Yuji Matsuda, Kazuo Kobayashi, and Takaki Hatsui, "Development of Monolithic Multi-Element Silicon Drift Detectors", IEEE Transactions on Nuclear Science, 10.1109/TNS.2026.3667475

発表者

理化学研究所
放射光科学研究センター 制御情報・データ創出基盤グループ
グループディレクター 初井 宇記(ハツイ・タカキ)

高輝度光科学研究センター 研究DX推進室
特任研究員 工藤 統吾(クドウ・トウゴ)
(理研 放射光科学研究センター 客員研究員)

株式会社ディーアンドエス
代表取締役社長 倉知 郁生(クラチ・イクオ)

株式会社エイアールテック
代表取締役 今村 俊文(イマムラ・トシフミ)

株式会社MIST
代表取締役社長 松田 祐二(マツダ・ユウジ)

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
お問い合わせフォーム

公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)利用推進部 普及情報課
Tel: 050-3495-0247
Email: kouhou@spring8.or.jp

株式会社ディーアンドエス
Tel: 090-3241-8899 / 042-667-1205
Email: kurachi.ikuo@d-and-s.co.jp

株式会社エイアールテック
Tel: 082-421-4222
Email: imamura@a-r-tec.jp

株式会社MIST
Tel: 090-5903-2381
Email: matsuda@jp-mist.com

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