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2026年8月4日

理化学研究所

NK細胞とキラーT細胞の協調免疫機構の解明に成功

-難治性腫瘍のための次世代のがんワクチンや免疫療法の設計に貢献-

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター 免疫細胞治療研究チームの清水 佳奈子 上級研究員、藤井 眞一郎 チームディレクター(最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部 創薬・医療技術基盤プログラム 副プログラムディレクター)らの研究チームは、自然免疫[1]を担うナチュラルキラー(NK)細胞[2]獲得免疫[1]を担うキラーT細胞[3]が、腫瘍微小環境[4]内で時空間的に協調することで、抗腫瘍免疫を強力に誘導する新たなメカニズムを見いだしました。

従来十分に理解されていなかった抗腫瘍エフェクター細胞[5]であるNK細胞とキラーT細胞の相互作用を解明し、次世代のがんワクチンや免疫療法の設計への貢献が期待されます。

がん免疫療法において、キラーT細胞が入り込めない腫瘍(「コールド腫瘍」)は治療が難しい大きな要因となっています。藤井チームディレクターらが長年研究に取り組んできた、細胞型ワクチンである人工アジュバントベクター細胞(aAVC)[6]を投与することにより、活性化NK細胞が腫瘍組織の外縁部に集積して、免疫細胞を腫瘍組織内に誘導する環境を形成します。これにより、抗原特異的キラーT細胞が腫瘍へと誘導され、腫瘍組織の外縁部で活性化NK細胞とキラーT細胞の両者がクラスターを形成することで高い細胞傷害活性が発揮されます。この過程にはCCR5-CCL5経路[7]およびCXCR3-CXCL9経路[8]が関与し、自然免疫と獲得免疫の連携を仲介していることが明らかとなりました。さらに、この協調的免疫応答は、免疫細胞が乏しい腫瘍を炎症性で治療応答性の高い状態へと転換することを示しました。

本研究は、科学雑誌『Cancer Research』オンライン版(8月3日付:日本時間8月4日)に掲載されました。

腫瘍組織におけるNK-CTLの協調の図

腫瘍組織におけるNK-CTLの協調

背景

近年、がん免疫療法は、患者自身の免疫細胞を活性化させて、がんを攻撃する治療法として大きく進歩しています。特に、免疫チェックポイント阻害剤[9]は一部のがんで高い効果を示しています。その一方で、免疫細胞の一種であるT細胞が腫瘍内部に十分入り込めず、免疫チェックポイント阻害剤が効きにくい「コールド腫瘍」と呼ばれるタイプのがんでは、がん免疫療法による治療効果が限定的であることが大きな課題となっています。

これまでのがん免疫療法では、主に「獲得免疫」を担うキラーT細胞の活性化に注目が集まってきました。一方で、「自然免疫」を担うナチュラルキラー(NK)細胞も、がん細胞を直接攻撃できる重要な免疫細胞として知られています。しかし、NK細胞とキラーT細胞が腫瘍内でどのように連携し、抗腫瘍効果を発揮しているのかについては、十分に解明されていませんでした。

また近年では、空間トランスクリプト―ム解析[10]により、単一細胞RNA解析(scRNA-seq)[11]で確認された機能性の免疫細胞が、腫瘍組織内で「どこに存在しているか」を詳細に調べることが可能となりました。しかし、自然免疫と獲得免疫が腫瘍微小環境の中でどのような順番でどのように協調するのかについては、多くが未解明でした。

そこで本研究では、人工アジュバントベクター細胞(aAVC)を用い、キラーT細胞の浸潤が乏しい難治性腫瘍モデルである「コールド腫瘍」において、NK細胞とキラーT細胞がどのように協調して抗腫瘍免疫を形成するのかを解明することに挑みました。

研究手法と成果

研究チームは、「コールド腫瘍」を模倣したマウス腫瘍モデルに、抗がん剤のシスプラチン[12]、免疫チェックポイント阻害剤の抗PD-1抗体[9]、aAVC-HPVをそれぞれ投与して、抗腫瘍効果と免疫応答を調べるとともに腫瘍内で起こる免疫応答を詳細に解析しました。マウス腫瘍モデルにはヒトパピローマウイルス(HPV)抗原を発現させたTC-1細胞(腫瘍細胞)を皮下接種させました。 その結果、抗腫瘍効果は、抗PD-1抗体投与群は全く効果を示さず、シスプラチン投与群では一定の効果にとどまり、aAVC-HPV投与群では12匹中7匹で腫瘍が完全に排除されたことから、高い治療効果を確認できました(図1A)。免疫応答を解析したところ、シスプラチン、抗PD-1抗体投与群ではNK細胞、抗原特異的キラーT細胞の腫瘍内への遊走は認められませんでした(図1B)。

コールド腫瘍に対するaAVCの抗腫瘍効果および抗腫瘍エフェクター細胞の誘導の図

図1 コールド腫瘍に対するaAVCの抗腫瘍効果および抗腫瘍エフェクター細胞の誘導

  • A.抗腫瘍効果。マウス腫瘍モデルにHPV抗原を搭載したaAVC(aAVC-HPV)、シスプラチン、免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)で治療したところ、aAVC-HPVが最も効果的で12匹中7匹が完全に腫瘍を排除できた。
  • B.各治療群の腫瘍における免疫細胞の解析。治療開始後3日目の腫瘍内NK細胞を解析したところ、aAVC-HPV群ではNK細胞の数が増え、Klrg1+NKサブセットが増加していた(上図で赤で囲った部分)。そのようなNK細胞の変化は他の群では認めなかった。一方、治療後10日目の腫瘍内キラーT細胞を解析したところ、aAVC-HPVでは著明にキラーT細胞(CD8陽性T細胞)数が増加し、さらにHPV抗原特異的なキラーT細胞の増幅が認められた(下図で赤で囲った部分)。CD27:NK細胞の成熟・分化状態を評価するための細胞表面マーカーの一つ。Klrg1、CD11bなど他の分子と組み合わせることで、NK細胞の成熟段階を分類することができる。E7-tet:HPV由来E7抗原を認識するキラーT細胞を検出する試薬。

一方、aAVC-HPV投与群では、活性化したNK細胞が早期に腫瘍組織の外縁部へ集積して、細胞の遊走を制御する分泌タンパク質ケモカイン[7]の一種であるCCL5などを産生し、「免疫細胞を呼び込む場」を形成していました(図2A左)。続いてCCR5およびCXCR3[8]を発現している抗原特異的キラーT細胞(図2A右)が腫瘍へと誘導され、NK細胞と抗原特異的キラーT細胞が腫瘍境界部でクラスターを形成することが確認されました(図2B)。

NKおよびキラーT細胞のケモカインなどの発現および腫瘍内における各細胞の局在の図

図2 NKおよびキラーT細胞のケモカインなどの発現および腫瘍内における各細胞の局在

  • A.ケモカインおよびケモカインレセプターの発現。aAVC治療後3日目の脾臓(ひぞう)のNK細胞はCCR5の発現が増強される(上左)。治療後7日目になると脾臓のキラーT細胞のCCR5およびCXCR3の発現が上昇する(上右、下右)。同じタイミングで腫瘍内NK細胞はCCL5を高発現する(下左)。
  • B.腫瘍内における機能的NK細胞とキラーT細胞の局在。aAVC治療後7日目の腫瘍組織においてNK細胞(緑)とキラーT細胞(ピンク)が共局在していることが判明した(白矢印)。μm:1μmは100万分の1メートル。

このNK細胞とキラーT細胞のクラスターでは、細胞傷害性分子[3]炎症性サイトカイン[13]の発現が高く、強力な抗腫瘍活性を示していました。また、NK細胞を除去するとキラーT細胞の腫瘍浸潤が大きく低下し、がんワクチンの抗腫瘍効果も失われることから、NK細胞がT細胞を腫瘍へ導く重要な役割を担うことが示されました(図3)。

の図

図3 aAVC治療における抗腫瘍エフェクター細胞

マウス腫瘍モデルに、aAVC治療前よりキラーT細胞を除去(抗CD8抗体投与)あるいはNK細胞除去(抗アシアロGM1抗体投与)を行うと、抗腫瘍効果は消失した。キラーT細胞とNK細胞が抗腫瘍エフェクター細胞として機能していることが判明した。

さらに、本研究により、CCR5-CCL5経路およびCXCR3-CXCL9経路という二つのケモカイン経路が、自然免疫と獲得免疫の連携を仲介する中心的な仕組みを担っていることが明らかとなりました。すなわち、CCR5を発現する活性化NK細胞は腫瘍内で産生されるCCL5によって腫瘍組織へ遊走し、CXCR3を発現するキラーT細胞は腫瘍内で産生されるCXCL9によって腫瘍内へ浸潤することで、自然免疫から獲得免疫へと抗腫瘍免疫応答をつなぐ一連の細胞動員機構が形成されることが示されました。

本研究では、scRNA-seqによりキラーT細胞とNK細胞の機能的評価を行い、空間トランスクリプト―ム解析により、腫瘍組織内でキラーT細胞とNK細胞の共存が抗腫瘍効果の増強に寄与することを示すことができました。

今後の期待

本研究成果は、これまで十分に理解されていなかったNK細胞とキラーT細胞の協調メカニズムを解明するとともに、免疫細胞が少ない難治性腫瘍を、治療応答性の高い状態へ転換する新たな免疫療法戦略へ貢献することが期待されます。

補足説明

  • 1.自然免疫、獲得免疫
    自然免疫は先天的な免疫システムで、さまざまな種類の抗原を対象に初期防衛を担う。獲得免疫は、後天的な免疫システムで、抗体や多様な細胞性免疫応答によって特定の異物を認識し排除する。
  • 2.ナチュラルキラー(NK)細胞
    ウイルスによる感染やがん細胞に対する初期防御機構としての働きを担っている自然免疫リンパ球の一種。
  • 3.キラーT細胞、細胞傷害性分子
    免疫細胞の一種で細胞傷害性T細胞(CTL)とも呼ばれる。主にキラーT細胞(CD8陽性T細胞)がこの役割を担い、ウイルス感染細胞やがん細胞など宿主にとって異物となる細胞を認識して破壊する。細胞傷害性分子は、活性化したCTLから放出され、標的細胞の細胞死を誘導する分子。CTLはcytotoxic T lymphocyteの略。
  • 4.腫瘍微小環境
    腫瘍組織中には、腫瘍細胞だけでなく免疫系細胞や血管系細胞、線維芽細胞などのさまざまな非腫瘍細胞が存在し、これらの細胞や環境を総称して腫瘍微小環境(tumor microenvironment:TME)と呼び、腫瘍の成長や化学療法、免疫療法への抵抗性と関連している。
  • 5.エフェクター細胞
    エフェクター細胞とはがんや病原体を直接攻撃し排除する、あるいは免疫応答を活性化する機能を有する細胞を指す。がんに対するエフェクター細胞としては、獲得免疫に属するCD4T細胞、CD8T細胞、自然免疫に属するNK細胞が代表的である。
  • 6.人工アジュバントベクター細胞(aAVC)
    がんの免疫療法で研究が進められている人工細胞。藤井チームディレクターらが開発を進めている細胞型ワクチンプラットフォーム。他家細胞(マウス用にはNIH3T3細胞、ヒト用にはHEK293細胞)に、CD1d分子のmRNAと標的がん抗原分子のmRNAを遺伝子導入させ、CD1d上にアルファガラクシトシルセラミド(α-GalCer)を発現させた細胞。アジュバントとは免疫反応を増幅させること、ベクターは運び屋という意味。aAVCはartificial adjuvant vector cellsの略。
  • 7.CCR5-CCL5経路、ケモカイン
    ケモカイン(走化性因子)は低分子の分泌タンパク質であり、標的細胞の細胞膜上のケモカイン受容体と結合することによって、細胞移動を促進する。ケモカインには多くの種類があり、「CCL5」はCCケモカインと呼ばれるケモカインファミリーの一つで、その受容体であるCCR5を発現している細胞に作用する。例えば、炎症が起こったとき、活性化されたキラーT細胞やNK細胞などの免疫細胞からCCL5が産出され、CCL5は受容体CCR5を発現している他の免疫細胞を炎症局所へ誘導する。このようにCCR5-CCL5経路とはCCR5発現細胞がCCL5を介して局所へ誘導するシグナル経路を指す。
  • 8.CXCR3-CXCL9経路、CXCR3
    CXCR3はケモカインレセプター(受容体)の一種。活性化したT細胞で発現が上昇し、炎症局所へと誘導する。CXCL9などがそのリガンド(特異的に結合する物質)である。CXCR3-CXCL9経路とは、CXCL9がCXCR3を介してキラーT細胞を腫瘍局所へ誘導するシグナル経路を指す。
  • 9.免疫チェックポイント阻害剤、抗PD-1抗体
    免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞の活性化を抑制する負の共刺激分子(PD-1、CTLA-4)およびそのリガンドに結合し、その作用を阻害する抗体の総称で、T細胞の免疫抑制を解除することにより、抗腫瘍免疫応答を増強する。抗PD-1抗体はその一種である。
  • 10.空間トランスクリプトーム解析
    組織切片上で遺伝子発現(トランスクリプトーム)を測定し、その発現情報を組織内の位置情報と対応付けて解析できる技術。これにより、「どの遺伝子が、組織のどの場所で発現しているか」を地図のように可視化することができる。
  • 11.単一細胞RNA解析(scRNA-seq)
    1細胞中に含まれるRNAをDNAシーケンサーで配列決定し、網羅的かつ定量的にその量や種類を決定する方法。
  • 12.シスプラチン
    がん細胞のDNAと結合して抗がん効果を発揮する抗がん剤である。白金原子を持っていることから、抗がん剤の中では「白金製剤」に分類される。多くの固形がん治療における標準治療として用いられる。
  • 13.炎症性サイトカイン
    サイトカインとは、細胞同士の情報伝達にかかわるさまざまな生理活性を持つタンパク質の総称。炎症性サイトカインとは、体内への病原体の侵入を受けて産生されるサイトカインで、生体防御に関与する多種類の細胞に働き、炎症反応を引き起こす。

研究チーム

理化学研究所 生命医科学研究センター 免疫細胞治療研究チーム
チームディレクター 藤井 眞一郎(フジイ・シンイチロウ)
(最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部 創薬・医療技術基盤プログラム 副プログラムディレクター)
上級研究員 清水 佳奈子(シミズ・カナコ)
テクニカルスタッフⅠ 三瓶 杏(サンペイ・アン)
テクニカルスタッフⅡ リュウ・エン(Liu Yan)
テクニカルスタッフⅠ 石橋 拓也(イシバシ・タクヤ)
人材派遣職員 柳川 茉厘(ヤナガワ・マリン)
テクニカルスタッフⅠ 信賀 順(シンガ・ジュン)
テクニカルスタッフⅠ 中里 洋(ナカザト・ヒロシ)
研究員 植田 翔悟(ウエダ・ショウゴ)
研究員 山﨑 哲(ヤマサキ・サトル)

研究支援

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラム(シーズA)「HPV関連がんに対するHPV抗原発現人工アジュバントベクター細胞(aAVC-HPV)の開発(研究代表者:藤井眞一郎、JP17lm0203003j0001)」、同ワクチン・新規モダリテイ研究開発事業「多機能性免疫誘導を有する新規ワクチンモデリティ『人工アジュバントベクター細胞(aAVC)』技術による感染症ワクチンの開発(研究代表者:藤井眞一郎、JP233fa827015h0003)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(C)「難治性癌の免疫ランドスケープ解明による治療標的因子の探索(研究代表者:藤井眞一郎、JP25K10457)」「造血器腫瘍症例におけるSARS-CoV-2 T細胞応答の検証(研究代表者:清水佳奈子、JP23K06604)」による助成を受けて行われました。

原論文情報

  • Kanako Shimizu, An Sanpei, Yan Liu, Takuya Ishibashi, Marin Yanagawa, Hiroshi Nakazato, Jun Shinga, Shogo Ueda, Satoru Yamasaki, and Shin-ichiro Fujii*, "Multi-omics Dissection Reveals Natural Killer Cell-CD8* T Cell Cooperation in Shaping an Immunostimulatory Tumor Microenvironment", Cancer Research, 10.1158/0008-5472.CAN-25-4957

発表者

理化学研究所
生命医科学研究センター 免疫細胞治療研究チーム
チームディレクター 藤井 眞一郎(フジイ・シンイチロウ)
(最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部 創薬・医療技術基盤プログラム 副プログラムディレクター)
上級研究員 清水 佳奈子(シミズ・カナコ)

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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