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2026年8月25日

理化学研究所
宇都宮大学

次世代2µm固体レーザー向け高効率EUV光発生法を実証

-EUV光源の発生効率を40%向上-

理化学研究所(理研)光量子工学研究センター 未踏レーザー科学研究チームの高橋 栄治 チームディレクター、宇都宮大学 工学部基盤工学科の東口 武史 教授らの国際共同研究グループは、先端半導体[1]を製造する露光装置の駆動レーザーとして期待される、波長2マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)の固体レーザー(2μm固体レーザー[2])を用いた極端紫外(EUV)光[3]発生において、マルチレーザー照射法[4]が有効であることを初めて実証しました。

本研究成果は、EUV露光装置[5]で必要とされる駆動レーザーエネルギーの低減や省電力化につながると期待されます。

現在のEUV露光装置では波長10.6μm炭酸ガスレーザー[6]が用いられていますが、その消費電力の大きさが課題となっており、電力効率に優れた2μm固体レーザーへの置き換えが世界中で検討されています。一方2μm固体レーザーは、EUV露光装置が必要とするレーザー出力にはいまだ達しておらず、レーザーエネルギーを低減しながら高いEUV光変換効率[7]を実現する技術が求められていました。今回、国際共同研究グループは、2μm固体レーザーを用いたEUV光発生にマルチレーザー照射法を適用し、EUV光変換効率を2.6%から3.6%へ、約40%向上させることに成功しました。本成果により、1本当たりのレーザーエネルギーを低減させつつ、複数のレーザーを同時にEUV光発生に使用することで高いEUV光変換効率を維持できることを実証しました。これは、比較的低出力の2μm固体レーザーを複数台組み合わせて高効率なEUV光発生を実現できる可能性を示すものであり、EUV露光装置の省電力化の実現を後押しする成果です。

本研究は、科学雑誌『Optics Letters』(8月24日付)に掲載されました。

マルチレーザー照射法の概念図の画像

マルチレーザー照射法の概念図

背景

先端半導体は、生成AIやスマートフォン、自動運転などを支える重要な基盤技術であり、経済安全保障の観点からもその重要性が高まっています。最先端の半導体は、波長13.5ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)の極端紫外(EUV)光を用いたEUV露光装置によって製造されており、EUV光源には大出力の炭酸ガスレーザーによりスズ(Sn)プラズマを生成する方式が用いられています。

回路パターンをさらに微細化するには、より高出力なEUV光源が必要とされています。しかしながら、現在の方式では巨大な炭酸ガスレーザーをEUV光発生に使用するため、EUV露光装置1台当たりの消費電力が1メガワット(MW、1MWは100万ワット)を超えます。このような高い消費電力を背景に、EUV露光装置を多数運用する半導体受託生産の大手企業であるTSMCの電力消費は、台湾全体の1割に迫る規模に増加していると報じられており、半導体製造コストや環境負荷の面で大きな課題となっています。この課題を解決するため、炭酸ガスレーザーの置き換えを目指して、電気-光変換効率(電気エネルギーから光エネルギーに変換できる割合)に優れた波長2μm帯のレーザー開発が世界中で進められています。しかし、EUV露光装置が必要とするレーザーエネルギーを2μm固体レーザーで実現することは容易ではなく、さまざまな新しいレーザー技術の開発が不可欠となっており、実用化のめどはまだ立っていません。

そこで本研究では、1台の高出力2μm固体レーザーに依存するのではなく、複数の2μm固体レーザーを同時に照射してスズプラズマを生成することで、レーザーからEUV光への変換効率を高め、各レーザーに必要なエネルギーを低減するという新しいアプローチに挑みました。

研究手法と成果

本研究では2μm固体レーザーと、高橋チームディレクター、東口教授らが開発した「マルチレーザー照射法」と呼ばれるEUV光発生法を組み合わせることで、EUV光変換効率を約40%向上させることに成功しました。本成果により、1本当たりのレーザーエネルギーを低減させつつ、複数のレーザーを同時にEUV光発生に使用することで高いEUV光変換効率を維持できることを実証しました。

実験では、真空容器内に設置されたスズ金属の平板ターゲットに、2μm帯Ho:YAG固体レーザー[8](波長2,090nm、パルス幅20ナノ秒(ns、1nsは10億分の1秒)、繰り返し周波数1キロヘルツ(kHz))を集光照射することでプラズマを生成し、EUV光のスペクトル、EUV光エネルギー(EUV光変換効率)、光源イメージ、高速イオンなどを観測しました(図1)。

実験装置図の画像

図1 実験装置図

1台のHo:YAG固体レーザーから出力されたビームを2本に分割し複数ビームを生成。レンズの位置を調整することで、照射するビーム数に応じて集光サイズを変え、スズ平板ターゲット位置でのレーザー強度を1平方センチメートル当たり2×1011ワット(W/cm2)となるように調整。EUV光エネルギーはEUVエネルギーメーターで、EUV光源サイズはピンホールカメラでそれぞれ測定。

まず、単一レーザー照射条件において、EUV光変換効率が最大となるレーザー強度(レーザー総エネルギー40ミリジュール(mJ)、入射角0度)を調べました。その結果、1平方センチメートル当たり約1.6×1011ワット(約1.6×1011W/cm2)のレーザー集光条件において最大変換効率として2.6%を得られることを確認しました(図2)。また、放射流体シミュレーションによりプラズマ温度や発光スペクトルを計算し、実験結果と一致することを確認しました。

レーザー強度とEUV光変換効率およびスペクトル純度の関係の図

図2 レーザー強度とEUV光変換効率およびスペクトル純度の関係

約1.6×1011W/cm2の単一レーザー強度で最大EUV光変換効率2.6%を得られることを確認した。スペクトル純度は最大8%に達し、帯域外発光が強く抑制されることが示されている。

次に、単一レーザー照射条件を基準として、複数レーザー照射下におけるEUV光発生特性を調べました。総レーザーエネルギー40mJを2本のレーザー(20mJ+20mJ、入射角±30度)に分岐し、それぞれのレーザー強度を最適値に保ったまま、スズ平板ターゲットに同時照射しました。単一レーザーと総レーザーエネルギーは同じであり、「レーザー本数」だけが異なる条件でEUV光発生の特性を比較したところ、EUV光変換効率が2.6%から3.6%へ向上し、約40%の効率向上を達成しました。これは、スズ平板ターゲットを用いた2μm固体レーザーEUV光源として世界最高レベルの変換効率です。

さらに、EUV光のエネルギーを測定したところ、2本のレーザーでは時間波形の時間積分値が増加することが観測されました(図3)。この結果は、レーザーで加熱されるプラズマ領域が広がることでプラズマの冷却が抑えられ、EUV光が多く放射されたことを示しています。

2本のレーザービーム照射でエネルギーメーターに記録されたEUV発光信号の図

図3 2本のレーザービーム照射でエネルギーメーターに記録されたEUV発光信号

1ビームの場合と比較して、2ビームのレーザービーム照射では、時間波形の時間積分値が増加することが観測された。μs(マイクロ秒、1μsは100万分の1秒)。

EUVピンホールカメラ[9]による観測では、EUV光源サイズは単一レーザー照射時と複数レーザー照射時のどちらも約60~70μmであり、ほとんど変化しませんでした(図4)。すなわち、本手法では光源サイズを大きくすることなくEUV光変換効率のみを向上できることを示しています。また、本光源サイズは、将来の高NA・Hyper-NA EUV露光装置[10]で要求される約100μm以下という条件も満たしています。

総照射レーザーエネルギー40mJでレーザービーム数を変化させたEUV光の発生部の図

図4 総照射レーザーエネルギー40mJでレーザービーム数を変化させたEUV光の発生部

(a)1ビーム(1パルス当たり40mJ(40mJ/パルス)、スポット径40μm)、(b)2ビーム(20mJ/パルス、スポット径30μm)を±30度の入射角で照射。集光レンズの焦点位置と焦点スポット径を調整することで各レーザーの強度を1.6×1011W/cm2に保っている。

今後の期待

本研究により、1台の超高出力2μm固体レーザーの開発に依存せず、低出力の複数レーザービームを照射することでEUV光変換効率を高めるという新しい設計指針が示されました。今後、2μm固体レーザー本数の最適化や、EUV露光機内で用いられている液滴状スズターゲットにおける実証を進めることで、実際のEUV露光装置への応用が期待されます。さらに、電気-光変換効率の高い2μm固体レーザーの使用により、EUV露光装置全体の消費電力の低減につながる可能性があります。本成果は、将来の高NA・Hyper-NA EUV露光装置に向けた省エネルギーEUV光源の実現に貢献するとともに、生成AIや自動運転などを支える先端半導体の持続的な発展や、日本の半導体分野における国際競争力の強化にも寄与することが期待されます。

補足説明

  • 1.先端半導体
    回路線幅が数nm以下の最先端の製造技術を用いてつくられる半導体。生成AIやスマートフォン、自動運転などの情報処理を支える基盤技術であり、経済安全保障や産業競争力の観点からも重要性が高まっている。
  • 2.2μm固体レーザー
    炭酸ガスレーザー([6]参照)よりも電気-光変換効率が高く、将来のEUV露光装置([5]参照)用レーザーとして期待されている。現在、ファイバーレーザーや薄ディスクレーザーなど、さまざまな方式の高出力2μm固体レーザーの研究開発が世界中で進められている。
  • 3.極端紫外(EUV)光
    波長13.5nmの極端紫外線。可視光の約40分の1という短い波長を持つため、非常に微細な回路パターンを半導体ウエハー上に形成することができる。現在の最先端半導体の製造には不可欠な光であり、EUV露光装置では、高出力レーザーをスズ(Sn)に照射して生成した高温プラズマから発生させる。
  • 4.マルチレーザー照射法
    複数のレーザーを同時に照射してレーザー加熱領域を広げ、プラズマの冷却を抑制することで、EUV光の発生効率を高める手法。高橋チームディレクター、東口教授らにより2024年にコンセプト提案と1μmレーザーによる実証が行われた注)
  • 5.EUV露光装置
    半導体回路をシリコンウエハー上に転写(露光)する装置。EUV光を用いることで、先端半導体を製造することができる。一方、EUV露光装置は1台当たり1MWを超える電力を消費するため、その省エネルギー化が重要な課題となっている。
  • 6.炭酸ガスレーザー
    炭酸ガス(CO2)をレーザー媒質として用いる赤外レーザー。波長10.6μmのレーザー光を高出力で発生できることから、現在のEUV露光装置の駆動レーザーとして用いられている。一方で、電気からレーザー光への変換効率が数%程度と低く、大きな消費電力が課題となっている。
  • 7.EUV光変換効率
    入射したレーザーエネルギーに対して出力されるEUV光エネルギーの比。
  • 8.Ho:YAG固体レーザー
    Ho:YAG(ホルミウム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット)を用いた固体レーザー。ホルミウムイオン(Ho3+)を添加したYAG(Y3Al5O12)結晶をレーザー媒質とする。波長約2.1μmのレーザー光を発生し、炭酸ガスレーザーに比べて電気-光変換効率が高いことから、EUV露光装置の駆動レーザーへの応用が期待されている。
  • 9.EUVピンホールカメラ
    EUV光を放射するプラズマを観測するためのカメラ。微小な穴(ピンホール)を通してEUV光を結像するため、EUV光を透過するレンズを用いることなく、高温プラズマの発光分布やEUV光源サイズを高い精度で測定できる。
  • 10.高NA・Hyper-NA EUV露光装置
    EUV露光装置において、より微細な回路パターンの形成を目的として、投影光学系の開口数(NA:Numerical Aperture)を高めた次世代露光装置。NAが大きいほど、より細かい回路パターンを描画できるが、その一方で、より高出力なEUV光源が必要となる。

国際共同研究グループ

理化学研究所 光量子工学研究センター 未踏レーザー科学研究チーム
チームディレクター 高橋 栄治(タカハシ・エイジ)
(最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部 計算領域拡張プロジェクト(TRIP3)先端半導体技術開発 テーマリーダー)
基礎科学特別研究員 西宮 海人(ニシミヤ・カイト)

宇都宮大学 工学部 基盤工学科
教授 東口 武史(ヒガシグチ・タケシ)
(理研 光量子工学研究センター 未踏レーザー科学研究チーム 客員研究員)
博士前期課程1年 長浜 直輝(ナガハマ・ナオキ)
博士前期課程2年 山本 隼也(ヤマモト・シュンヤ)
(理研 光量子工学研究センター 未踏レーザー科学研究チーム 研修生)
博士前期課程2年(研究当時)矢澤 隼斗(ヤザワ・ハヤト)
博士前期課程1年 髙井 悠太(タカイ・ユウタ)
博士前期課程2年 田中 千智(タナカ・チサト)
(理研 光量子工学研究センター 未踏レーザー科学研究チーム 研修生)

東京大学 大学院工学系研究科
准教授 坂上 和之(サカウエ・カズユキ)

パデュー大学(米国)極端環境物質センター
研究員 砂原 淳(スナハラ・アツシ)

アイルランド国立大学ダブリン校
教授 ジェリー・オサリバン(Gerry O'Sullivan)

広島大学 大学院先進理工系科学研究科
教授 難波 愼一(ナンバ・シンイチ)

研究支援

本研究は、RIKEN TRIP3先端半導体技術開発、科学技術振興機構(JST)経済安全保障重要技術育成プログラム「次世代半導体微細加工の基盤技術研究開発(研究代表者:緑川克美、JPMJKP24M1)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(B)「超広帯域可視ベクトル光による超高速スペクトル計測と高感度欠陥検出(研究代表者:東口武史、JP23H01416)」、同学術変革領域研究(B)「生物と無生物をつなぐ軟X線励起発光体とSX-STED技術の確立(研究分担者:東口武史、JP24H00836)」、同基盤研究(S)「超高強度中赤外レーザーによる高効率相対論的高次高調波発生の実証(研究分担者:東口武史、JP25H00395)」、住友財団(2200578)による助成を受けて行われました。

原論文情報

  • Naoki Nagahama, Kaito Nishimiya, Shunya Yamamoto, Hayato Yazawa, Yuta Takai, Chisato Tanaka, Kazuyuki Sakaue, Atsushi Sunahara, Gerry O'Sullivan, Shinichi Namba, Takeshi Higashiguchi, Eiji Takahashi, "40% boost in extreme ultraviolet conversion efficiency via simultaneous dual-beam 2-μm laser irradiation", Optics Letters, 10.1364/OL.607856

発表者

理化学研究所
光量子工学研究センター 未踏レーザー科学研究チーム
チームディレクター 高橋 栄治(タカハシ・エイジ)

宇都宮大学 工学部 基盤工学科
教授 東口 武史(ヒガシグチ・タケシ)

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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宇都宮大学 広報・渉外係
Tel: 028-649-5201
Email: kkouhou@a.utsunomiya-u.ac.jp

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