今日のAIの基礎となる人工ニューラルネットワークや機械学習、情報幾何学の分野での先駆的研究が高く評価され、2025年6月、第40回京都賞(先端技術部門)を受賞。甘利 俊一 栄誉研究員の功績は個人の研究成果にとどまらず、理研をはじめ関わった研究機関で多くの優秀な研究者を育成し、脳科学分野の発展に多大なる貢献を果たしてきました。
甘利 俊一(アマリ・シュンイチ)
栄誉研究員
脳科学「理論」の研究者として理研へ
理研でのキャリアは1994年10月、国際フロンティア研究システムという先駆的な研究体制の中で、情報処理研究グループのディレクターを任されたときから始まった。小脳研究の世界的権威であった故・伊藤 正男 国際フロンティア研究システム長(当時)による抜擢だった。当時すでに、統計学や情報理論、システム理論、学習理論、群論、微分幾何学などを組み合わせた独立成分解析(複数音声の分離技術)で世界的評価を得ていたことから、「新時代の脳科学の研究グループをつくりたい。脳の研究は医学や生理学だけでなく情報理論や数理科学も必要なので来てほしい。理研はいいところですよ……と誘われました」と笑いながら振り返る。
医学、生理学、工学の総合知で脳に挑む
1997年10月、理研に脳科学総合研究センター(BSI:Brain Science Institute)が設立され、初代に就任した伊藤 BSI所長が「脳を知る」「脳を守る」「脳を創る」の3領域を展開することになった。甘利 博士は「脳を創る領域」の脳型情報システム研究グループディレクターに任命され、独立成分解析に加え、空間の幾何学構造によって人工知能の学習効率を何倍もよくする「自然勾配学習法」の研究に取り組んだ。
6年後の2003年4月、BSIのセンター長に着任。「青天の霹靂(へきれき)でした。私のような理論の研究者が脳の研究機関の長になど…と固辞しましたが、任命権を持つ小林 俊一 理事長(当時)から『伊藤さんの推薦です』と言われ、断り切れなかったのです」と笑う。
このときからBSIだけでなく、脳科学研究そのものの発展という重責を担う。
「世界に脳の研究機関はたくさんありますが、分子生物学や脳の生理学などが中心でした。それらに加えて工学と理論が一緒となった研究機関はなかった。そこでBSIは、その特徴を生かして脳の分子機構から細胞領域、脳システムの解読、知能や心理などの人文的な研究、さらに工学と理論までも総合する唯一無二の脳科学センターを実現したいと考えたわけです」
甘利 博士は理研の学際性に加えて、国際色を豊かにさせることにも注力した。結果、当時の46研究チームのうち七つのチームリーダー、約500人の研究者のうち2割が外国人という体制となった。
脳科学とAIの共進化を目指す
「毎年2月ごろになると、チームリーダー一人一人と、この1年間での成果と今後の方針について議論しました」
チームは5年経過すると国際レビューにかけ、あと5年存続させるか、クローズするかを決めた。「理研は必要な研究には研究費を充てることはもちろんですが、研究環境も整っています。ですが、研究成果の見込みや今後の発展への期待がなければ居続けることはできません。天国であり、地獄でもあるのです」
甘利 博士は、このシステムは優れた研究者の育成に適していると考えている。「7年なり10年なりで良い成果を上げた研究者には大学へ移ってもらい、若い研究者を育ててもらう。この人材の循環のおかげで、東京大学や京都大学など、多くの大学に理研出身の教授がたくさんいます」
人工知能の研究を牽引してきたことを振り返り、脳科学とAIの関係について、「AIには人間の脳に学ぶべきことがまだまだあります。一方、脳科学もAIを参考にすれば意識や心など、人文的領域も含めてさらに進歩できます。異なる二つの知能システムである脳科学とAIの研究者がより活発に交流することで共に発展してほしい」と希望を語った。
「理研の強みは総合科学です。脳科学やAIに限らず、物理や化学などさまざまな研究分野がそろっています。それらが協調することで新たな研究の芽が生み出される理研に、これからも大いに期待しています」
昼休みになると、仲間が居室(研究室)にやってきて囲碁を打つのが楽しみ。
関連リンク
- 2025年6月20日お知らせ「甘利 俊一 栄誉研究員が「京都賞」を受賞」
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