理化学研究所[1](五神真理事長、以下「理研」)は、アルゴンヌ国立研究所[2](ポール・カーンズ所長、以下「ANL」)、富士通株式会社[3](時田 隆仁 代表取締役社長、以下「富士通」)、NVIDIA Corporation[4](ジェンスン・ファン CEO、以下「NVIDIA」)との間で、AIおよびハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)分野における協力協定を締結しました。本協定は、次世代計算基盤の構築と活用、システムソフトウエアおよび科学・工学向けのアプリケーション開発と評価、科学分野における高度なAI活用の推進を目的としています。
本協定は、日本と米国がともに国家戦略として推進する「AI for Science[5]」の連携強化を図るものです。これにより、量子HPC分野を含めた日米間のAI・HPC分野における協力は、従来のコンピュータ科学領域の協力を超えて、大幅に拡大されることになり、日本および米国のリーダーシップの強化が図られることになります。
連携・協力内容
近年、AI技術の進展は単なるツールの進化にとどまらず、科学研究の方法そのものを変革する力として期待されています。生成モデルや大規模AI基盤モデルを科学研究に活用することで、生命科学、材料科学、環境・気候研究、量子コンピューティングなど多岐にわたる分野で、これまで数年単位を要していた課題の解決を大幅に短縮し、知識発見のプロセスそのものを再設計するような変革をもたらす可能性があります。また、次世代計算基盤の開発は、そのような「AI for Science」を推進する上で欠かせません。
理研とANLは、2024年4月「AI for Science」に関する連携覚書を締結しています注1)。また、理研は、スーパーコンピュータ「富岳」[6]の次世代となる新たなフラッグシップシステム(開発コードネーム:「富岳NEXT」)に関して、富士通およびNVIDIAと国際連携で開発を進めています注2)。昨年の11月には米国においてAIプラットフォームの構築と同プラットフォームを通じた先端技術の研究開発強化に向けた大統領令である「ジェネシス・ミッション(Genesis Mission)[7]」が発令されました。本覚書では、これまでの協力関係を発展させつつ、「ジェネシス・ミッション」のビジョンも基盤に据えて連携を進めていきます。
今後、本協定に基づき、締結4機関が相互に関心のある分野で連携を進めていく予定です。連携課題としては、AIを軸として、先端的なHPC分野における次世代計算基盤のアーキテクチャの共同検討やオープン化されたソフトウエアのエコシステム構築、AIおよびロボティクス技術による自動実験ワークフローの高度化、量子コンピュータとAIスーパーコンピュータの融合などが想定されています。また、上述の目的を達成するため、4機関共同での会議やワークショップの開催、エコシステムの構築を目指した標準規格策定作業への参加、科学コミュニティおよび広く市民などとの意見交換などを進めていく予定です。
具体的な連携分野(例)は以下の通りです。
- 次世代HPC・AIアーキテクチャ
- モデリング、シミュレーション、AIワークロードの密な融合向けに最適化された次世代コンピューティングアーキテクチャの共同検討とプロトタイピング。
- HPCシステム・プラットフォーム
- ハードウェア、システムソフトウエア、施設要件を統合した全体システム設計の検討と検証。
- AIを活用した科学のためのソフトウエアエコシステムの共有
- 大規模な「AI for Science」を実現する、共有可能でオープンかつ相互運用可能なソフトウエアスタックの構築。
- 「AI for Science」向けアプリケーション開拓およびユースケースの実証
- 共同選定された高価値を有する科学アプリケーションの実証、またそれによるシステムとソフトウエアへの要件定義の推進。
- AI駆動型ロボットによる自動実験ラボ
- 自律的な実験ワークフローの開発を通じて、AIと物理科学の統合を推進。
- 量子とスーパーコンピューティングと統合の加速
- 量子有用性を実現するための、量子情報科学とAIスーパーコンピューティングの融合推進。
- 注1)2024年4月11日のお知らせ「理研とアルゴンヌ国立研究所がAI for Scienceに関する覚書を締結」
- 注2)2025年8月22日のお知らせ「理化学研究所、富士通およびNVIDIAとの国際連携による「富岳NEXT」開発体制を始動」
関係者のコメント
理研 理事長 五神 真
理研は、科学分野における高度なAI活用の推進において、米国エネルギー省(DOE)の「ジェネシス・ミッション」を踏まえたANL、富士通、NVIDIAとの4者協定を通じ、日米協力の枠組みで世界をリードします。本協定に基づき、次世代計算基盤のアーキテクチャ検討やオープンなソフトウエア環境の構築、AIとロボティクスによる実験自動化、量子とAIスパコンの融合を強力に推進します。HPCおよびAI、量子技術の統合による「AI for Science」の取り組みを通じ、科学の変革と地球規模の課題解決に挑みます。
ANL 所長 ポール・カーンズ
本連携は、AIおよび高性能計算がもたらす変革的な可能性を活用し、エネルギー、国家安全保障、基礎研究分野における喫緊の科学的課題に取り組むための重要な前進を意味します。私たちは共に、次世代計算アーキテクチャとAI駆動型の科学的発見を実現する基盤を構築し、「ジェネシス・ミッション」の目標達成に向けて取り組んでいきます。
富士通 副社長CTO システムプラットフォーム担当 ヴィヴェック・マハジャン
このたび、理研、ANL、NVIDIAとのAIおよびHPC分野における協力協定の締結を、大変光栄に、また深い意義を感じております。当社は、「富岳」で培ったHPC技術に加え、現在開発を進めている「FUJITSU-MONAKA」、「FUJITSU-MONAKA-X」といった革新的なプロセッサ技術、さらには世界をリードする、量子コンピュータにおけるハードウエア・ソフトウエア両面での取り組みなど、多岐にわたる技術と知見を保有しております。これらを結集し、次世代計算基盤の革新に貢献する所存です。富士通はこの歴史的な国際協業を通じて、より持続可能な世界の実現を目指し、全力で貢献いたします。
NVIDIA ハイパースケールおよび HPC担当副社長 イアン・バック
「AI for Science」は、発見の在り方を再定義し、実験やシミュレーションを継続的に学習するシステムへと進化させています。この日米間の産業連携による取り組みは、発見を加速する重要な機会であり、先進的なAI、高性能計算(HPC)、次世代コンピューティングプラットフォーム開発、量子技術とオープンイノベーションを組み合わせることで、その強力な相乗効果を示しています。私たちは材料科学、創薬、エネルギー研究などの分野で共に進展を遂げ、これまで困難だった課題に科学者が取り組む力を与えています。
左から理研R-CCS 松岡 センター長、文部科学省 柿田 審議官、富士通 マハジャン 執行役員副社長 CTO、理研 五神 理事長、米アルゴンヌ スティーブンス 副所長、NVIDIA ジョセファキス 副社長、米国エネルギー省 ギル 次官
補足説明
- 1.理化学研究所
理化学研究所 - 2.アルゴンヌ国立研究所
アルゴンヌ国立研究所 - 3.富士通株式会社
富士通株式会社 - 4.NVIDIA Corporation
NVIDIA Corporation - 5.AI for Science
AIとシミュレーション、多様なデータを組み合わせるなどして、科学技術にAIを活用し、研究プロセスを大きく加速させる取組み。これにより、さまざまな分野で画期的な科学技術イノベーションをもたらすことが期待される。理研では、「AI for Science」を推進するため、AIを活用したさまざまなシミュレーションなどの研究に取り組むとともに、最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業の一環として2024年度にライフサイエンス・材料科学などの科学研究のための基盤モデルの開発・活用を行う「AGIS」プログラムを新たに開始している。
※AGIS:Advanced General Intelligence for Science Program(科学研究基盤モデル開発プログラム) - 6.スーパーコンピュータ「富岳」
スーパーコンピュータ「京」の後継機。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年3月に共用が開始された。現在「富岳」は日本が目指すSociety 5.0を実現するために不可欠なHPCインフラとして活用されている。 - 7.ジェネシス・ミッション(Genesis Mission)
米国がAI(人工知能)を活用して科学研究と技術革新を国家規模で加速させるための大規模な国家イニシアチブ。米国エネルギー省(DOE)が主導し、全米の国立研究所や民間企業と連携して、AI、量子技術、スーパーコンピューティングを統合した強力なプラットフォームを構築し、エネルギー、防衛、バイオテクノロジー、材料科学など国家戦略分野でのイノベーションを推進し、米国の科学技術競争力と国家安全保障を強化することを目的としている。
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理化学研究所 計算科学研究推進部 アウトリーチグループ
Email: r-ccs-koho@ml.riken.jp
理化学研究所 広報部 報道担当
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