2026年6月19日
理化学研究所
DTS
ScaleWorX
Giga Computing Technology
量子HPC連携プラットフォーム向け新スーパーコンピュータ「ROQUO(ろっこう)」運用開始
-量子コンピューティングとHPCの連携を加速-
理化学研究所 計算科学研究センター(R-CCS)量子HPC連携プラットフォーム部門(部門長:佐藤 三久)は、量子コンピューティングと高性能計算(ハイパフォーマンス・コンピューティング:HPC)の連携を加速するため、神戸市にあるR-CCSに新たにJHPC-quantum GPUスーパーコンピュータ「ROQUO(ろっこう)」を導⼊し、運用を開始しました。
「ROQUO」は、神戸を象徴する六甲山(ろっこうさん)にちなんで命名された、量子HPC連携プラットフォーム向けの新たな計算基盤です。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業「計算可能領域の開拓のための量子・スパコン連携プラットフォームの研究開発」プロジェクト(JHPC-quantumプロジェクト[1])の⼀環として導⼊され、2025年11⽉18日に発表した「量子HPC連携プラットフォーム向けスーパーコンピュータ」として、株式会社DTSを中心に構築が進められました。今般予定どおり構築を完了し、運用開始の段階を迎えました。
運用準備の一環として実施したHigh Performance Linpack(HPL)ベンチマーク計測[2]において、「ROQUO」は倍精度浮動小数点演算(FP64)で19.80ペタフロップス(PFLOPS:P(ペタ)は1千兆)を達成しました。
「ROQUO」の外観
システム名「ROQUO」名称は、設置場所である神戸市を象徴する六甲山(ろっこうさん)に由来する。神戸の地に根ざし、麓の街の発展を見守ってきた六甲山のように、R-CCSの計算基盤として、また日本の量子HPC連携プラットフォームの中核として、長く社会と研究に貢献することへの願いを込めて「ROQUO」と命名された。
また、計算機ラックの扉部に施されたアートワークは、六甲山の稜線と、設置場所であるポートアイランドの海と空をモチーフとしてデザインされた。神戸の地理的・文化的アイデンティティを視覚的に表現することで、地域に根ざした研究基盤であることを象徴している。
システム概要
「ROQUO」は、「NVIDIA GB200 NVL4[3]」を搭載した計算ノード135台(NVIDIA Blackwell GPU計540基)で構成されます。ノード間は、NVIDIA Quantum-X800 InfiniBand ネットワーキング[4]により最大3.2テラビット毎秒(Tbps:T(テラ)は1兆)の高速通信が可能であり、温水冷却サーバ[5]の採用により、高性能と高エネルギー効率を両立しています。
「ROQUO」は、本発表と同⽇に理研から発表したAI for Science向けであるスーパーコンピュータ「理究(りきゅう)」[6]とともに、GB200 NVL4を採用した日本で最初の本格運用システムとなります。GB200 NVL4は、生成AIの大規模学習・推論に特化した72 GPU構成のNVIDIA GB200 NVL72に対し、HPC(科学技術計算)アプリケーションへの適用も考慮した4 GPU構成の製品です。AIワークロードへの対応能力を保ちつつ、HPC計算で多用されるFP64演算性能と、設置・運用面での柔軟性、コストパフォーマンスのバランスを重視した設計となっており、計算特性の異なる多様なワークロードを扱う研究基盤に適しています。
また、「ROQUO」は、NVIDIA Quantum-X800 および同ファブリックを構成するNVIDIA Quantum-X800スイッチを、「理究」とともに日本国内で初めて導入しました。これにより、量子HPC連携プラットフォームに求められる低遅延・広帯域なノード間通信を実現しています。
「ROQUO」は、神戸市にあるR-CCSに設置され、日本を代表するスーパーコンピュータ「富岳」[7]をはじめとするスーパーコンピュータや量子コンピュータとのハイブリッドシステム開発を可能にするため、NVIDIA CUDA-Qなどのプラットフォームを活用したSQC Interface[8]を介して接続されます。
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| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| システム名 | JHPC-quantum GPUスーパーコンピュータ 「ROQUO」 |
| 設置場所 | 計算科学研究センター(神戸市) |
| 計算ノード | NVIDIA GB200 NVL4 × 135台 |
| 総GPU数 | 540基(NVIDIA Blackwell) |
| 総CPU数 | 270基(NVIDIA Grace) |
| ノード間ネットワーク | NVIDIA Quantum-X800 InfiniBand(最大3.2 Tbps) |
| 冷却方式 | 温水冷却(フリークーリング、32℃冷却水) |
| FP64演算性能(理論ピーク) | 21 PFLOPS超 |
| FP8演算性能(理論ピーク) | 5 EFLOPS超 |
| FP64実測性能(HPL) | 19.80 PFLOPS |
性能計測結果
運用準備の一環として、「ROQUO」の全計算ノード(計算ノード135台、GPU 540基)を用いてHPLベンチマーク計測を実施しました。倍精度浮動小数点演算(FP64)における実測性能(Rmax)は19.80 PFLOPSに達し、量子HPC連携プラットフォームの中核を担う計算資源として、設計目標を上回る性能を備えていることを実証しました。
この性能の実現にあたっては、「理究」とともに「ROQUO」が日本国内で初めて採用したNVIDIA Quantum-X800 InfiniBand プラットフォームが重要な役割を果たしています。ポートあたり800ギガビット毎秒(Gbps)の通信速度に対応したInfiniBand規格のQ3400スイッチが、計算ノード間を低遅延・広帯域で結合することで、HPLが必要とする集団通信を効率的に処理しています。
HPLベンチマークは、計算ノード間で多数のデータ転送と同期通信を伴う通信比率の高いワークロードです。「ROQUO」では、最新世代のNVIDIA Grace Blackwellアクセラレータと NVIDIA Quantum-X800 InfiniBandファブリックの組み合わせにより、計算性能と通信性能のバランスの取れたシステムを構成しており、量子HPC連携プラットフォームに必要な計算基盤として安定した性能を提供します。
期待される成果
「ROQUO」の運用開始により、以下の取り組みが本格化します。
- スーパーコンピュータ上での量子計算シミュレーション環境の充実化と、量子アルゴリズム開発・性能評価の高速化
- 「富岳」、IBM Quantum System Two「ibm_kobe」[9]、Quantinuum社製イオントラップ型量子コンピュータ「黎明」[10]との密結合連携による、量子HPCハイブリッドコンピューティングの実証
- 量子機械学習をはじめとする、量子コンピュータとGPUを組み合わせた新しいアプリケーション分野の開拓
- 「富岳」単体では対応が難しい高度な計算ニーズへの柔軟な対応
「ROQUO」の運用はR-CCSが主体的に行います。NVIDIA Grace Blackwellプラットフォームと、日本初導入となるNVIDIA Quantum-X800 InfiniBandファブリックという先進的な構成のシステムをR-CCSが直接運用することにより、次世代スーパーコンピュータの運用知見を組織内に確実に蓄積していきます。
この運用経験の蓄積を通じて、今後のスーパーコンピュータ運用の効率化を図るとともに、そこで得られる成果は現在開発中の次世代フラッグシップ機「富岳NEXT」(開発コードネーム)[11]にも適用される予定です。大規模GPUクラスタの運用ノウハウ、温水冷却による省エネルギー運用の実証データなど、本プロジェクトで蓄積される知見は、日本の次世代スーパーコンピューティングの礎となります。
量子HPC連携プラットフォームの全体像。R-CCS(神戸市)には「富岳」・「ibm_kobe」・「ROQUO」が集約され、SINETを介して大阪大学・東京大学・ソフトバンクおよび理研(和光市)の「黎明」と接続される。
構築・運用体制
「ROQUO」は、R-CCSの要求仕様に基づき、株式会社DTSを中心に構築されました。NVIDIA社がアクセラレーテッド コンピューティングおよびネットワーキングを備えたシステムを提供し、Giga Computing Technology社が計算ノードの設計・製造を担当、DataDirect Networks社が高速ファイルシステムを提供しました。これらの構成要素を基に、株式会社ScaleWorXが全体のシステムインテグレーションを担いました。
運用開始後は、R-CCSが主体となって運用を担い、量子HPC連携プラットフォームの中核計算資源として、研究コミュニティおよび産業界の利用に供します。R-CCSはこれまで「富岳」をはじめとするスーパーコンピュータ運用を通じて培ってきた運用技術を「ROQUO」にも適用するとともに、新たに得られる運用知見を蓄積・体系化していきます。
代表者からのコメント(運用にあたって)
- 理研 計算科学研究センター 量子HPC連携プラットフォーム部門 部門長 佐藤 三久
- JHPC-quantumプロジェクトでは、量子コンピュータとHPCを連携させたハイブリッドコンピューティング技術の研究開発を推進しています。近年、GPUを活用した高性能計算やAI技術との融合が注目されており、今回のGPUシステムの導入はまさに時宜を得たものであると考えています。本システムの導入により、量子・HPCハイブリッド技術のさらなる発展と、新たな応用領域の開拓に貢献することが期待されます。
- NVIDIA インダストリアル エンジニアリングおよび量子担当 ゼネラルマネージャー ティム・コスタ
- 科学発見の次の時代は、量子コンピューティングとアクセラレーテッド スーパーコンピューティングを融合させたシステムによって形作られ、単独の技術だけでは解決できなかった課題への新たな道が開かれるでしょう。理化学研究所は、「ROQUO」を通じて、NVIDIA GB200 NVL4システムとNVIDIA Quantum-X800 InfiniBandを、量子HPCハイブリッドプラットフォームを介して「富岳」および量子コンピュータと接続することで、このビジョンを現実のものとしています。
補足説明
- 1.JHPC-quantumプロジェクト
「計算可能領域の開拓のための量子・スパコン連携プラットフォームの研究開発」プロジェクトの通称。NEDOの委託事業として、量子コンピュータとスーパーコンピュータを連携利用するためのシステムソフトウェアおよびプラットフォームを研究開発する。「ROQUO」はこのうち量子・HPC連携プラットフォームにおけるHPC側の中核計算基盤として位置付けられる。 - 2.High Performance Linpack(HPL)ベンチマーク計測
HPLは、密行列の線形方程式系を解く処理性能を測定するベンチマークであり、世界のスーパーコンピュータ性能ランキング「TOP500」の評価指標として広く用いられている。本プレスリリースに記載の実測値は、「ROQUO」の全計算ノード135台(GPU 540基)を用いた計測結果である。 - 3.NVIDIA GB200 NVL4
NVIDIA社の最新Grace Blackwellプラットフォーム。1ノードあたり2基のNVIDIA Grace CPUと4基のNVIDIA Blackwell GPUをNVLink-C2C相互接続技術で統合する。生成AIの大規模学習・推論に特化した72 GPU構成のGB200 NVL72に対し、GB200 NVL4は4 GPU構成とすることでHPC(科学技術計算)アプリケーションへの適用も考慮した設計となっており、設置・運用面での柔軟性とコストパフォーマンスのバランスに優れる。 - 4.NVIDIA Quantum-X800 InfiniBand ネットワーキング
NVIDIA社が提供する高速ネットワーク技術で、ポートあたり最大800ギガビット毎秒(Gbps:G(ギガ)は10億)の通信速度を実現。HPCクラスタ内の低遅延通信を可能にする。本ファブリックはInfiniBand XDR 800 規格に対応したNVIDIA Quantum-X800 Q3400スイッチで構成される。 - 5.温水冷却サーバ
スーパーコンピュータの計算で発生する熱を、温水を使って冷却する方式。外気を利用する「フリークーリング」技術により、冷却塔だけで水を冷やすことができ、圧縮機を使わないため冷却に必要なエネルギーを大幅に削減できる。「ROQUO」では、神戸で真夏でも自然の力のみで冷却可能な32℃の水を冷却水として使用し、同規模のスーパーコンピュータと比較して全体の電力を約20%以上削減できる。 - 6.スーパーコンピュータ「理究(りきゅう)」
理化学研究所最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部科学研究基盤モデル開発プログラムにおいて計算科学研究センターが整備を進めるAI for Science 開発用スーパーコンピュータ。「理究」は自然や社会を支配する原理・法則をAIとスーパーコンピューティングで探り出し、基礎科学から応用まで幅広い研究を支える計算基盤を目指している。 - 7.スーパーコンピュータ「富岳」
理化学研究所と富士通が共同開発した日本のスーパーコンピュータ。2020年に世界ランキングで1位を獲得。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年3月に共用が開始された。現在「富岳」は日本が目指す Society 5.0 を実現するために不可欠な高性能計算インフラとして活用されている。 - 8.SQC Interface
JHPC-quantumプロジェクトで開発した、量子コンピュータとHPCを直接接続し、データのやり取りやジョブ制御を可能にするAPI(Application Programming Interface)。 - 9.IBM Quantum System Two「ibm_kobe」
IBMが開発する次世代の超伝導型量子コンピュータ。高いスケーラビリティ(拡張可能性)と安定性を特徴とする。「ibm_kobe」はR-CCSに設置され、直接「富岳」および「ROQUO」と接続される。 - 10.イオントラップ型量子コンピュータ「黎明」
Quantinuumが開発するイオントラップ方式を採用した量子コンピュータ。全結合量子ビットに対する高精度なゲート操作が可能。 - 11.「富岳NEXT」(開発コードネーム)
「富岳」の後継として開発が進められている日本の次世代フラッグシップ・スーパーコンピュータ。2030年前後の運用開始を目指し、AI・量子・HPCの融合領域で世界をリードする計算基盤として設計が進められている。
研究支援
本プロジェクトは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業(JPNP20017)」の委託事業「計算可能領域の開拓のための量子・スパコン連携プラットフォームの研究開発(研究代表者:佐藤三久)」による助成を受けて行われています。
関連発表
- 2025年11月18日お知らせ「量子HPC連携プラットフォーム向けのシステムが決定 ―量子コンピューティングと高性能計算(HPC)の連携を加速―」
- 2023年11月22日お知らせ「量子コンピュータとスパコンを連携利用するためのプラットフォーム研究開発プロジェクトを始動」
「ROQUO」の利用について
「ROQUO」は、JHPC-quantumプロジェクトの参画機関による研究開発のための計算基盤として運用されます。あわせて、本プロジェクトが実施するテストユーザープログラムを通じて、外部の研究者・ユーザーへの計算リソース提供も予定しています。
テストユーザープログラムの公募状況・申請方法等は、JHPC-quantumプロジェクト公式サイトの「テストユーザープログラム」ページにてご案内します。
お問い合わせ
理化学研究所 計算科学研究推進部 アウトリーチグループ
Email: r-ccs-koho@ml.riken.jp
