このたび、一般社団法人日本物理学会の認定する「日本物理遺産注1)」に、理化学研究所(理研)が所有する3号サイクロトロンが選ばれました。この3号サイクロトロンは、1937年に世界で2番目に完成したサイクロトロン1号機(小サイクロトロン)の設計を基に、1952年に文京区本駒込の旧㈱科学研究所(現在は解散)内に建設されたものです。物理遺産の対象となった直径66センチ(26インチ)の磁極を形成するための「電磁石注2)」が理研和光地区仁科RIBF棟玄関前にモニュメントとして、「関連する設計図面」が理研広報部(記念史料室)に保存されています。なお、同時に製造された「イオン加速箱」は国立科学博物館に収蔵されています。
今年、日本物理学会は設立80周年を記念して日本物理遺産の認定をはじめ、第1回目として本件を含む5件を同時認定することが2026年9月16日の第81回年次大会にて発表されました。
3号サイクロトロンに関連する歴史遺産は、日本の原子核物理の父と称される仁科芳雄博士が主導して世界で2番目に完成させた小サイクロトロンの面影を残しています。その小サイクロトロンは、戦時下においては空襲により深刻な損傷を受け、終戦後は2号機(大サイクロトロン)とともに軍事研究注3)に供されたとみなされ、米軍の指示による破壊・廃棄の対象となりました。その後、仁科芳雄とその遺志を受け継いだ弟子たちが国内世論や科学者の国際ネットワーク注4)との信頼関係を再構築しつつ、小サイクロトロンと同じ26インチのサイクロトロンを3号機として再建したことも、この3号サイクロトロンから日本の原子核の実験研究再興の歴史が始まったことを物語っています。その歴史は、現在の9号サイクロトロン(超電導サイクロトロン:SRC)へと繋がっています。
- 注1)日本において、または日本人が中心となって達成された物理学研究の重要な成果を示すものであって、学術上の価値が特に高いもの、および、物理学の研究・教育等の在り方の推移を理解するため欠くことのできないもののうち、特に重要なものに対して認定するとされています。
関連情報は、日本物理遺産ホームページをご覧ください。 - 注2)1920年代に原町無線塔で使われた後に理研が譲り受けて再利用したもの。今年産業遺産(2026年度 認定番号第135号)に認定されました。小サイクロトロンにも、同じく譲り受けた電磁石が使用されていました。
2026年9月7日 お知らせ「産業遺産の認定について」 - 注3)戦時中、理研では日本陸軍の依頼による核エネルギーの利用に関した、いわゆる「ニ号研究」を実施していましたが、核分裂などの基礎的研究に留まっていました。
理研ヒストリア「中根良平元理研副理事長に聞く 歴史秘話サイクロトロンと原爆研究」 - 注4)1951年5月に来日したサイクロトロン発明者であるE. O.ローレンスの提言が3号サイクロトロン建設への最終的な後押しになったといわれています。ローレンスら米国の科学者は、サイクロトロンを原子爆弾研究と関連付けて破壊したことを非難する声明を出していました。
参考文献:伊藤憲二著「励起」(下巻)みすず書房
3号サイクロトロンの電磁石
理研のサイクロトロン1号機(小サイクロトロン)
関連リンク
- 2026年9月16日 一般社団法人日本物理学会「日本物理遺産 第1回第1期(2026年)認定結果を公表しました」
