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2026年1月21日

理化学研究所
九州大学

廃棄高機能プラスチックの再資源化技術を開発

-固体酸触媒で高付加価値化学品への変換に成功-

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チームの山田 陽一 チームディレクター、アブヒジト・セン 研究員、九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)のアンドリュー・チャップマン 准教授(同大学 大学院経済府 准教授)らの共同研究グループは、高分子固体酸触媒PAFR IIとマイクロ波加熱を組み合わせて、世界的に需要が拡大しているにもかかわらず再資源化が難しい「ポリオキシメチレン(POM)」を分解して再資源化へつなげる技術を開発しました。

本研究成果は、持続可能な化学産業の構築や循環型社会の実現に貢献することが期待されます。

共同研究グループは、高分子固体酸触媒PAFR IIとマイクロ波[1]技術を組み合わせることで、エンジニアリングプラスチック[2]の一つであるPOMを分解し、溶媒や殺虫剤、ホスト分子ピラー[5]アレーン[3]といった高付加価値化学品へ変換するケミカルアップサイクリング[4]技術の開発に成功しました。

本研究は、科学雑誌『Green Chemistry』オンライン版(1月21日付:日本時間1月21日)に掲載されました。

高分子酸触媒PAFR IIによるPOMから有用物質へのケミカルアップサイクリングの図

高分子酸触媒PAFR IIによるPOMから有用物質へのケミカルアップサイクリング

背景

プラスチックは、現代社会において欠かせない素材ですが、その多くは分解できないため、再利用が困難であり、環境へ大きな負荷がかかります。プラスチック廃棄物による環境問題が深刻化する中、化学的手法によって廃プラスチックを再資源化し、付加価値のある化学物質へと変換するケミカルアップサイクリングが注目されています。なかでも、エンジニアリングプラスチックの一つである「ポリオキシメチレン(POM)」は高強度・耐水性を備えていることから、自動車部品や家電製品、日用品(ジョイント、バックル、ギアなど)に幅広く使われており、世界的に需要が拡大しています。一方で、POMは熱分解温度が高いため従来の再利用技術では再資源化が難しいという技術的な課題がありました。

これまでもPOMを分解して再利用する研究は進められてきましたが、多くの既存技術はPOMの分解過程で大量のエネルギーを使うため大量の二酸化炭素(温室効果ガス)の排出を伴ったり、環境負荷の高い有機溶媒や大量の触媒を必要としたりするなど、持続可能性に課題がありました。また、POMを焼却すると二酸化炭素を排出するため、焼却処理も環境的側面から好ましくありません。

山田チームディレクターらは、エステル化反応(カルボン酸とアルコールが反応して、エステルと水が生成する反応)などにおいて高い触媒活性と高い耐久性を備えた高分子固体酸触媒「PAFR II(m-フェノールスルホン酸・ホルムアルデヒド樹脂)」を開発しました注1、2)。PAFR IIの触媒活性は、既存の固体触媒や均一系触媒[5]をしのぎます。

共同研究グループは、PAFR IIの優れた触媒活性を生かして、二酸化炭素排出量を低減しながら、POMを分解して高付加価値化合物に変換することを着想し、環境負荷の少ないPOMの新たなケミカルアップサイクリングの開発に挑戦しました。

  • 注1)H. Hu, H. Ota, H. Baek, K. Shinohara, T. Mase, Y. Uozumi, and Y. M. A. Yamada. Org. Lett. 22, 160-163 (2020) (DOI: 10.1021/acs.orglett.9b04084)
  • 注2)E. Soliman, H. Baek, N. Mase, Y. M. A. Yamada*, J. Org. Chem. 90, 1447-1454 (2025) (DOI: 10.1021/acs.joc.4c02384)

研究手法と成果

共同研究グループは、マイクロ波を照射したときにだけ観測される化学反応や、既知反応速度の加速効果などの「非熱的マイクロ波効果(以下、マイクロ波効果)」に着目し、高い触媒活性を備えたPAFR IIとマイクロ波加熱を組み合わせることで、POMを効率的に分解・変換し、高付加価値化合物へと導けるのではないかと着想しました。

まずモデル反応として、260mol ppm(原料1molに対して260ppm)濃度のPAFR IIを触媒として、POM(1)と反応剤である1,3-プロパンジオール(2a)に対してマイクロ波を2時間照射しました。その結果、POM(1)の分解によって生成したホルムアルデヒドと1,3-プロパンジオール2aが反応し、有用な環状アセタールである1,3-ジオキサン(3a)を99%という極めて高い収率で得ることができました(図1上)。このモデル反応を検証するために、条件を変えて1,3-ジオキサン(3a)の収率を調べました。

加熱方法について検証するため、マイクロ波加熱に替えて油浴加熱(油に入れて加熱)にて加熱したところ、1,3-ジオキサン(3a)の収率は73%にとどまり、マイクロ波加熱で生成される収率を大きく下回りました。この結果から、本反応において油浴加熱よりもマイクロ波加熱が有効であることが分かりました。

次に、触媒PAFR IIの濃度について検証するため、触媒PAFR IIの濃度を100mol ppm(原料1molに対して100ppm)濃度まで低減したところ、1,3-ジオキサン(3a)の収率は79%でした。触媒濃度を半分以下に減らしても79%の収率が保たれたことから、PAFRIIの触媒効率が十分に高いことが分かりました。

さらに、他の酸性触媒との比較実験においても、PAFR IIが最も優れた反応成績を示しました(図1下)。

これらの結果から、触媒PAFR IIとマイクロ波加熱を組み合わせて、POM廃材から有用な化学品を選択的に合成できることを実証しました。

さまざまな触媒によるPOM(1)と1,3-プロパンジオール(2a)との反応の図

図1 さまざまな触媒によるPOM(1)と1,3-プロパンジオール(2a)との反応

  • (上)モデル反応。触媒PAFR II存在下で、POM(1)と1,3-プロパンジオール(2a)にマイクロ波照射をした場合、1,3-ジオキサン(3a)が高収率で得られた。
  • (下)触媒PAFR II以外の触媒6種類と比較したところ、触媒PAFR IIの収率が最も高かった。

本手法の実用性を検証するため、実際に使われていたPOM製の廃プラスチック製品(ジョイント、バックル、歯車、チューブなど)を使って実験を行い、有用な化学品である1,3-ジオキサン(3a)を56~95%という高い収率で得ることができました。

次に、近年深刻な環境問題となっているマイクロプラスチックへの応用も検証しました。数百マイクロメートル(µm、1µmは100万分の1メートル)サイズに粉砕したPOM製プラスチックをモデル反応に用いたところ、88%という高い収率で1,3-ジオキサン(3a)を得ることができました。

また、炭素繊維を含む複合材料カーボンファイバー強化POM(CFRP)[6]を使った実験でも、1,3-ジオキサン(3a)を68%の収率で得ると同時に、炭素繊維そのものも96%という高い割合で回収することに成功しました。

使用後の触媒を回収して洗浄・乾燥させ、6回繰り返し使用(5回再使用)しても、安定した収率97~99%を維持し、この触媒が繰り返し使えることを確認しました。

これらの結果から、実際の廃プラスチック、海や土壌に蓄積した微細なPOMのマイクロプラスチック、組成が複雑なCFRPについても、本手法を使えば分解して資源として再利用できる可能性を示唆しています。さらに、触媒PAFR IIは再利用可能で循環型社会の実現に貢献します。

本手法で作られた高付加価値化学品の実用性について検証するために、廃プラスチックからつくられたジエトキシメタンを原料として、機能性材料ホスト分子ピラー[5]アレーン(図2左)や殺虫剤クロルフェナピル[7]合成中間体(図2右)を合成しました。その結果、機能性材料ホスト分子ピラー[5]アレーンは63%、殺虫剤クロルフェナピルは55%の収率で得ることができました。本研究手法で得られた化学品が、実際のものづくりに役立つことが分かりました。

本手法を用いた場合の廃プラスチックのライフサイクルを通じた環境への影響を、ライフサイクルアセスメント(LCA)[8]により評価しました。本手法を適用したPOMアップサイクリング、温室効果ガス排出量が、従来の1,3-ジオキサン合成法の6.08kgCO2-eq/kg(合成物1kg当たりの二酸化炭素(CO2)に換算した排出量の単位)と比較して、1.88kgCO2-eq/kgと大幅に低いことが明らかになりました。

これらの結果から、高い触媒活性を備えたPAFR IIとマイクロ波加熱を組み合わせ、POMを効率的に分解・変換することで、廃プラスチックが実用的な化学製品の原料としてよみがえる「ケミカルアップサイクリング」が可能であることが分かりました。

ピラー[5]アレーンならびにクロルフェナピル合成中間体の図

図2 ピラー[5]アレーンならびにクロルフェナピル合成中間体

PAFRIIを触媒としてPOMと環境調和型溶媒であるエタノールとの反応で得られたジエトキシメタンを使い、ホスト分子ピラー[5]アレーン(左)と殺虫剤クロルフェナピルの中間体(右)を合成した。それぞれの収率は63%、55%だった。

今後の期待

本研究成果により、使用済みプラスチックから有用物質を得る新たなリサイクル手法が普及し、マイクロプラスチック問題やCFRPの処理に対する環境対応技術として応用され、持続可能な化学産業の構築や循環型社会の実現に貢献することが期待されます。

高い触媒活性を備えたPAFR IIとマイクロ波加熱を組み合わせた技術はすでに数グラムスケールでの検証を終えています。さらに、回収した生成物は殺虫剤や高機能材料の合成原料にも活用可能であり、資源循環型社会の構築に貢献する技術です。今後は企業と連携したスケールアップや、POM以外の廃プラスチックへの応用展開を目指します。

強調したいことは、「エンジニアリングプラスチックごみが未来の資源になる」という可能性です。社会実装は今後5~10年以内を見据えており、実験室レベルから産業応用へと進化させるべく、引き続き基礎・応用の両面で研究を加速させていきます。

本研究成果は、国際連合が定めた17の目標「持続可能な開発目標(SDGs)[9]」のうち、「12.つくる責任、つかう責任」「14.海の豊かさを守ろう」「15.陸の豊かさも守ろう」への貢献につながるものです。

補足説明

  • 1.マイクロ波
    光子の振動がなす電磁波の一種。光子の波長が400~700ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)のものを可視光線、800nm付近のものを赤外線、そして数cmのものをマイクロ波と呼ぶ。電子レンジで発生するマイクロ波の波長は約12cm(周波数2.45GHz)である。
  • 2.エンジニアリングプラスチック
    高い強度・耐熱性・耐薬品性などの性能を持ち、機械部品や電気製品などの構造材料として使えるプラスチックのこと。
  • 3.ホスト分子ピラー[5]アレーン
    五つのベンゼン環が円柱(ピラー)のように環状につながった分子で、中空の空間(内孔)を持つホスト分子(内側に空洞があり、小さな分子を選択的に取り込むことができる分子)。応用例として、医薬品や機能性材料、分子認識や分離剤などが挙げられる。[5]は含まれるベンゼン環の個数を示す。
  • 4.ケミカルアップサイクリング
    使い終わったプラスチックや廃棄物などを、化学反応によって"より価値の高い化学品"に変換する技術のこと。
  • 5.均一系触媒
    反応物(原料)と同じ相に均一に存在する触媒のこと。通常、有機合成では反応物は液相あるいは気相に存在するため、均一触媒も液相、気相にある。
  • 6.カーボンファイバー強化POM(CFRP)
    ポリオキシメチレン(POM)樹脂にカーボンファイバー(炭素繊維)を混ぜて強化した複合材料。POMは、機械的強度や耐摩耗性に優れたプラスチックで、カーボンファイバーは、軽くて強度が高く、電気や熱に強い素材であり、この二つを組み合わせることで、軽量で非常に丈夫、かつ耐熱性・耐薬品性にも優れた材料になる。自動車部品や精密機器など、高い強度が求められる場面で使用される。
  • 7.殺虫剤クロルフェナピル
    農業などで使われる殺虫剤・殺ダニ剤の一種。広範囲の害虫に効果があり、野菜や果樹、茶などの作物保護に利用されている。
  • 8.ライフサイクルアセスメント(LCA)
    製品やサービスのライフサイクルを通じた環境への影響を評価する手法。二酸化炭素の排出量やエネルギーの使用量などを比較することで、環境に調和した技術かどうかを判断する。
  • 9.持続可能な開発目標(SDGs)
    2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17の目標、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。

共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム
チームディレクター 山田 陽一(ヤマダ・ヨウイチ)
(九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)客員教授)
研究員 アブヒジト・セン(Abhijit Sen)
テクニカルスタッフⅠ 大野 綾(オオノ・アヤ)

九州大学
カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)
准教授 アンドリュー・チャップマン(Andrew Chapman)
(九州大学 大学院経済府 准教授)
准教授 前田 修孝(マエダ・ノブタカ)
(理研 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム 客員研究員)
学術研究員 ジョーダン・カールソン(Jordan T. Carlson)
大学院経済府
大学院生 リナ・スー(Yina Xu)
大学院生 ザン・ジンシュエン(Jingxuan Zhang)

研究支援

本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(B)「高活性・高再利用性に高安定性が付与された高分子金属触媒の開発(研究代表者:山田陽一、21H01979)」、同学術変革領域研究(A)「固体触媒系のフロー反応と触媒インフォマティクス(研究代表者:山田陽一、24H01102)」、内藤記念科学振興財団による助成を受けて行われました。

また、本研究成果は、環境省による「革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業」により得られたものです。

原論文情報

  • Abhijit Sen, Aya Ohno, Andrew Chapman, Yina Xu, Jingxuan Zhang, Nobutaka Maeda, Jordan T. Carlson, Yoichi M. A. Yamada, "Upcycling Waste Polyoxymethylene to Value-added Chemicals Using Reusable Polymeric Acid Catalysts at ppm Levels", Green Chemistry, 10.1039/D5GC06065F

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム
チームディレクター 山田 陽一 (ヤマダ・ヨウイチ)
研究員 アブヒジト・セン (Abhijit Sen)

九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)
准教授 アンドリュー・チャップマン(Andrew Chapman)
(同大学 大学院経済府 准教授)

アブヒジト・セン 研究員、山田 陽一 チームディレクターの写真 左からアブヒジト・セン、山田 陽一

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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九州大学 広報課
Tel: 092-802-2130
Email: koho@jimu.kyushu-u.ac.jp

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