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2026年1月26日

理化学研究所
東京科学大学
日本医科大学

免疫細胞のエンジニアリングによる白血病治療

-根治した患者から学ぶ白血病に負けない「免疫の記憶形成」-

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター ヒト疾患モデル研究チームの石川 文彦 チームディレクター(東京科学大学 包括病理学分野 教授)、伊藤 亜里 研究員(研究当時、現 日本医科大 学衛生学・公衆衛生学 助教)、東京科学大学 包括病理学分野のリャン・ミンッガオ 講師らの国際共同研究グループは、新しい免疫細胞のエンジニアリング(遺伝子工学的改変)によって難治性白血病細胞を死滅させられることを証明しました。

本研究成果は、白血病の新しい根治療法開発と、現在の治療法で根治に導くことが難しい白血病の新しい治療法開発に貢献することが期待されます。

今回、国際共同研究グループは、虎の門病院にて臍帯血(さいたいけつ)移植によって完全に治癒したと判定された患者検体を解析して、T細胞と呼ばれる免疫細胞に「記憶(長く免疫機能を発揮する力)」(免疫記憶[1])が形成され、免疫記憶の形成とタンパク質CXCR4の発現が重なることを見いだしました。同時に、白血病細胞の表面にタンパク質CD25、CD96があることを見つけ、これらに結合して白血病細胞を捕まえる抗体[2]をつくりました。T細胞が白血病を倒すまで免疫を長期に維持する記憶タンパク質CXCR4、白血病細胞の表面に存在するタンパク質を見つけて捕まえる抗体を兼ね備えるエンジニアリングを行うことで、患者白血病細胞で患者白血病状態を再現したモデルマウスにおいて、骨や脾臓(ひぞう)、肝臓などで難治性白血病細胞を死滅させられることを証明しました。

本研究は、科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(1月26日付:日本時間1月26日)に掲載されます。

白血病の免疫を維持する記憶タンパク質と白血病細胞の抗体のT細胞エンジニアリングの図

白血病の免疫を維持する記憶タンパク質と白血病細胞の抗体のT細胞エンジニアリング

背景

白血病は、今も、多くの患者の命を奪う血液がんとして知られています。多様な白血病が存在し、B細胞というリンパ球が悪性化した急性リンパ性白血病と呼ばれる白血病に対しては、近年、T細胞に白血病由来のタンパク質を認識する抗体を含めた免疫細胞のエンジニアリングが行われ、CAR-T細胞[3]が治療に使われるようになりました。しかし、白血病は、他の固形がん同様、免疫が働かなくなるようにする複数のメカニズムを持っているため、治療が失敗し、患者の白血病が再発して命を落とす場合が少なくありません。特に、急性骨髄性白血病の場合には、有望な治療標的さえ見いだすことも難しいとされてきました。

1カ所にとどまることなく、血液中に巡り、体の至る所に存在する骨の中にすみ着く白血病細胞は、外科手術で取り除くことができません。このような血液がんである白血病に対して、根治の鍵の一つは免疫による白血病細胞への攻撃であると考えられます。そのためにはまず、生存能力が高く増殖が著しく速い腫瘍細胞に負けない免疫機能とはどのようなものかを理解することが重要と考え、研究を進めました。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、まず、治療標的として、正常な血液細胞には少なく、白血病細胞の表面には豊富に存在し、かつ現在の治療では根治することが困難とされる、白血病に関するタンパク質を探索しました。そして、治療標的分子として、幹細胞や心臓、肝臓などの諸臓器に少量存在し、臨床の経験から現在の治療で根治が困難とされる、白血病の白血病細胞表面に豊富に存在し、白血病に関係すると考えられるタンパク質CD25を最初の標的として選びました。次に、白血病細胞を見つけて捕まえるために、白血病細胞表面に存在するタンパク質CD25に結合する抗体と呼ばれる免疫物質を樹立しました。

並行して、虎の門病院(東京都港区)にて臍帯血移植治療を行い、完治した患者の検体を解析しました。治療が順調に進んだ理由が免疫にあると想定して調べた結果、免疫細胞のT細胞に「記憶=長く免疫機能を維持できる力」(免疫記憶)が形成されること、加えて免疫記憶形成とT細胞内のタンパク質CXCR4の発現が重なることを見いだしました。

この結果から、T細胞においてタンパク質CXCR4と、タンパク質CD25を認識して捕まえる抗体の両方を同時に発現させることで、T細胞が白血病を倒すまで長く免疫機能を発揮し続けると仮説を立てました(図1)。

記憶と抗体を持つT細胞のエンジニアリングと患者病態モデルでの検証の図

図1 記憶と抗体を持つT細胞のエンジニアリングと患者病態モデルでの検証

生まれて間もない血液中にあるT細胞が、患者体内に入って白血病細胞などの腫瘍細胞と出合うと「疲弊」して働かなくなることで、病気の再発という結果になる。臍帯血移植と呼ばれる治療で完治した患者のT細胞に多く見つかったタンパク質CXCR4と、白血病細胞を見つけて捕らえる抗体の両者を持たせるエンジニアリングを行い、骨髄・脾臓・肝臓などで患者の白血病細胞を倒せるかを検証した。タンパク質CXCL12は、T細胞のCXCR4タンパク質に結合して免疫が長く作動する機能をオンにする。

国際共同研究グループは、実際に、患者白血病細胞で病態を再現した実験動物(モデルマウス)を用いて、CXCR4と、CD25の抗体を持つT細胞を与えると、血液中に流れる白血病細胞だけでなく、骨や脾臓、肝臓に浸潤する難治性白血病細胞を死滅させられることを証明しました(図2)。また、各臓器における治療効果と一致して、患者細胞で病態を再現したマウスの多くが生存できることを確認しました(図3)。さらに、CD25という治療標的だけでなく、CD96という違ったタンパク質を標的に選んで、白血病細胞を見つけて捕らえ、CXCR4を持たせて免疫記憶を形成したT細胞を用いて検証したところ、白血病細胞を倒す力を強めることができることを証明することができました。

血液、脾臓、骨髄、肝臓に存在する白血病細胞に対する治療効果の図

図2 血液、脾臓、骨髄、肝臓に存在する白血病細胞に対する治療効果

免疫記憶を形成するCXCR4と抗体を兼ね備える免疫細胞が全ての組織で最もよく白血病細胞を死滅させた。

記憶と抗体を持つT細胞の治療効果の図

図3 記憶と抗体を持つT細胞の治療効果

CXCR4と抗体を持つ免疫細胞で治療した場合、患者病態を再現したモデルマウスは生存の可能性が高まった。

今後の期待

現在、CAR-T細胞などに代表されるエンジニアリングした細胞治療は臨床に応用できる時代となり、今回の新しく開発した細胞も同様に、現在救命が容易ではない白血病患者たちを助ける手段として期待されます。加えて、白血病だけでなく、他の血液がん、固形がんへの応用も、免疫記憶が重要であることは共通していると考えられていることから、今後、広く応用されることが期待されます。

補足説明

  • 1.免疫記憶
    ヒトの白血球の細胞は、分化によって多様な運命をたどるが、感染症に罹患(りかん)したときや、それを模倣するワクチンを注射したときに、タンパク質の一部を認識して覚える。その覚え方が長期にわたるために、記憶と呼ばれて、同じ感染症が個体に侵入したときに、記憶を呼び覚まし、すぐに白血球が対応するために、感染症にかかりにくくなり、悪化しない。白血球のうち、T細胞における免疫記憶を白血病に応用した研究が今回の成果である。
  • 2.抗体
    細胞が持つタンパク質の一部を認識して、その存在を捕らえる生体分子。B細胞というリンパ球がつくる分子で、乳がんや悪性リンパ腫では、抗体医薬というカテゴリーで治療にも使われている。
  • 3.CAR-T細胞
    キメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子導入によって発現させたT細胞のこと。抗体の遺伝子とT細胞の活性化を支える遺伝子の両者をつなぎ合わせる遺伝子をT細胞というリンパ球に持たせることで、相手を強く認識して捕まえ、腫瘍など病気の細胞を攻撃する、二つのメリットを兼ね備える。CARはChimeric Antibody Receptor細胞の略。

国際共同研究グループ

理化学研究所 生命医科学研究センター
ヒト疾患モデル研究チーム
チームディレクター 石川 文彦(イシカワ・フミヒコ)
(東京科学大学 包括病理学分野 教授)
研究員(研究当時) 伊藤 亜里(イトウ・アリ)
(現 日本医科大学 衛生学・公衆衛生学 助教)
研修生(研究当時)進藤 理穂(シンドウ・ミチホ)
研修生(研究当時)ヒェン・ビビ(Chen Bibi)
応用計算ゲノミクス研究チーム(研究当時)
チームリーダー(研究当時)デ ホーン・ミヒル ヤン ラウレンス(Michiel Jan Laurens De Hoon)
(現 細胞機能変換技術研究チーム 上級研究員)
トランスクリプトーム研究チーム
チームディレクター カルニンチ・ピエロ(Piero Carninci)
創薬タンパク質解析基盤ユニット
ユニットリーダー 白水 美香子(シロウズ・ミカコ)
研究員 松本 武久(マツモト・タケヒサ)

東京科学大学
包括病理学分野
講師 リャン・ミンッガオ(Minggao Liang)

虎の門病院
副院長(研究当時)谷口 修一(タニグチ・シュウイチ)
血液内科部長 内田 直之(ウチダ・ナオユキ)
医長 髙木 伸介(タカギ・シンスケ)

ジャクソン研究所(JAX、米国)
教授 シュルツ・レオナルド(Leonard Shultz)

シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)シンガポールゲノム研究所
グループリーダー シン・ジェ(Jay W. Shin)

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(S)「予後不良白血病に対する個別最適化治療の提案(研究代表者:石川文彦)」、セコム科学技術財団による助成を受けて、理化学研究所戦略的推進課題によって行われました。

原論文情報

  • Ari Itoh-Nakadai*, Minggao Liang*, Michiho Shindo, Chen Bibi, Mariko Tomizawa-Murasawa, Saera Fujiki, Akiko Kaneko, Emi Kanamaru, Mari Hashimoto, Hiroshi Kajita, Yoshinari Ando, Miki Kojima, Jonathan Moody, Makoto Iwasaki, Shinsuke Takagi, Ryo Nakagawa, Saumya Agrawal, Hanae Amitani-Iijima, Kaori Sato, Yuriko Sorimachi, Nahoko Suzuki, Takehiro Fukami, Takehisa Matsumoto, Mikako Shirouzu, Yuho Najima, Keiyo Takubo, Chung Chau Hon, Naoyuki Uchida, Shuichi Taniguchi, Yukihide Momozawa, Piero Carninci, Leonard D. Shultz, Yoriko Saito, Michiel de Hoon, Jay W. Shin, Fumihiko Ishikawa (* equally contributed authors), "CXCR4 INDUCES MEMORY FORMATION OVER EXHAUSTION IN CAR-T CELLS TO ACHIEVE DURABLE LEUKEMIA TARGETING", Nature Communications, 10.1038/s41467-025-67745-x

発表者

理化学研究所
生命医科学研究センター ヒト疾患モデル研究チーム
チームディレクター 石川 文彦(イシカワ・フミヒコ)
(東京科学大学 包括病理学分野 教授)
研究員(研究当時)伊藤 亜里(イトウ・アリ)
(現 日本医科大学 衛生学・公衆衛生学 助教)

東京科学大学 包括病理学分野
講師 リャン・ミンッガオ(Minggao Liang)

発表者のコメント

骨髄移植や臍帯血移植などの移植医療でどのようにして患者が助かっているかが分かりませんでしたが、今回の研究で、免疫の中での「記憶=長期に生存できる力」が形成されていることを発見しました。その免疫記憶を人工的に免疫細胞に持たせて新しい治療の提案ができました。新しい治療効果の検証について、白血病の病巣である骨髄や脾臓などの組織の中で、実際に白血病再発で苦しむ患者から得られた細胞に対して、どの程度であるかを確認することもできました。(石川 文彦)

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理化学研究所 広報部 報道担当
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