理化学研究所(理研)開拓研究所 坂井星・惑星形成研究室のヤン・ヤオルン 研究員らの国際共同研究グループは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)[1]を用いた観測により、原始星EC53[2]の周囲で惑星の材料となるちり(ダスト)が、星と円盤(原始惑星系円盤[3])の爆発的な増光(アクリーション・バースト)[4]によって結晶化する瞬間を初めて直接捉えました。
この研究成果は、原始星がまだ厚い外層に包まれている初期段階から、惑星系全体の化学組成を決定付けるダイナミックな物質変性と移動が始まっていることを示唆し、今後、惑星系の化学的な初期条件の解明につながることが期待されます。
観測の結果、アクリーション・バーストによって内側円盤のケイ酸塩[5]が加熱され、結晶へと変化すること、さらにその結晶が「入れ子構造の円盤風」により外側の領域へ運ばれる仕組みがあることが明らかになりました。この成果は、太陽系外縁で形成される彗星(すいせい)に高温起源の鉱物が存在する理由を説明する重要な手がかりです。
本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(1月21日付)に掲載されました。
原始星EC53におけるアクリーション・バーストによるケイ酸塩の結晶化と輸送の概念図
背景
「私たちはどこから来たのか」。この問いに対する答えを、天文学者は原始太陽系における物質の進化から探ってきました。地球のような岩石惑星や小惑星、彗星は、若い星を取り巻く円盤の中でケイ酸塩を主な材料として形成されます。このケイ酸塩は本来、構造が不規則な「非晶質(アモルファス)」ですが、900ケルビン(K:絶対温度の単位、約630℃)以上の高温にさらされると、規則正しい構造を持つ「結晶質」へと変化します。
興味深いことに、極寒の領域で形成される彗星(ヘール・ボップ彗星やワイルド第2彗星など)からも、この高温下でしか生成されないはずの結晶が見つかっており、初期太陽系の内側で焼かれた物質がどのように外側へ運ばれたのかが長年、未解決問題となっていました。これまで、米航空宇宙局(NASA)のスピッツァー宇宙望遠鏡などによる観測で「星の増光現象が結晶化を引き起こす」という説はありましたが、厚いガスとちりの層(エンベロープ)に覆われた極めて若い原始星段階で、このプロセスをリアルタイムかつ詳細に捉えるには、従来の望遠鏡では感度と分解能が圧倒的に不足していました。
研究手法と成果
国際共同研究グループは、JWSTの中赤外線観測装置(MIRI)を用い、約1.5年周期で明るさが変化する原始星EC53を、明るさが落ち着いている「静穏期」と、爆発的に明るくなる「バースト期」の両方のフェーズで精密に観測しました。その結果、次の2点が分かりました。
- 1.結晶化の直接観測:静穏期には見られなかったフォルステライト(苦土かんらん石)[6]やエンスタタイト(頑火輝石(がんかきせき))[7]特有のスペクトルが、バースト期にのみ出現することを突き止めました。これは、急激なガス降着によって内側円盤が加熱され、ちりが「焼きなまし」されて結晶化した直接の証拠です。一方で、より低温の領域を反映する波長18マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)帯では結晶の特徴が見られなかったことから、この結晶化がバースト中の高温(>900K)の内側円盤で限定的に起きていることが分かりました。
- 2.物質輸送メカニズムの特定:JWSTはその極めて高い感度により、高速の原子ジェットを低速の分子流が包み込む「入れ子構造の噴出流」の構造を鮮明に描き出しました。これは磁気流体力学(MHD)円盤風[8]モデルと一致するもので、内側で焼きなましされた結晶が、この風に乗って彗星が形成されるような円盤の外側へと効率的に運び出されていることを示唆しています。
今回の発見は、原始星がまだ厚い外層に包まれている初期段階から、惑星系全体の化学組成を決定付けるダイナミックな物質変性と移動が始まっていることを示しています。
今後の期待
本研究により、私たちの太陽系もまた、その誕生初期に同様の「爆発的増光」を繰り返すことで物質を焼きなまし、現在の惑星や彗星の材料をつくり上げてきた可能性が極めて高くなりました。今後は、他の原始星における観測例を増やすとともに、ガスの化学組成との比較研究を進めることで、「惑星系の化学的な初期条件がいつ、どのように決定されるのか」という普遍的なプロセスの解明につながることが期待されます。
補足説明
- 1.ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)
NASA(米航空宇宙局)、ESA(欧州宇宙機関)、CSA(カナダ宇宙庁)が共同開発した、史上最大かつ最も強力な赤外線宇宙望遠鏡。従来の望遠鏡(スピッツァー宇宙望遠鏡など)に比べて約100倍の感度を持ち、ちりの向こう側に隠された原始星の姿を驚くほど詳細に描き出すことが可能になった。 - 2.原始星EC53
太陽系から約1,400光年離れたへびつかい座にある非常に若い星。約1.5年という短い周期で、原始惑星系円盤([3]参照)から星本体へ大量のガスが流れ込むことで明るさが変化する「周期的なアクリーション・バースト([4]参照)」を起こすことで知られている。その規則的な性質から、惑星材料が加熱され、進化するプロセスをリアルタイムで観測するための「宇宙の天然の実験室」として、世界中の天文学者から注目されている。 - 3.原始惑星系円盤
生まれたばかりの恒星の周囲を取り巻くガスとちりから成る回転円盤。分子ガスとちりから成る分子雲が自己重力により収縮することで星は誕生するが、その際、大きな角運動量を持ったガスが直接中心には到達できず、原始星の周りに円盤が形成される。これを原始惑星系円盤と呼び、この中で惑星が形成されたと考えられている。おうし座のHL-Tauなど、主に中小質量の若い星の周りで発見されている。 - 4.爆発的な増光(アクリーション・バースト)
若い星の周囲にある円盤から、大量のガスやちりが星本体へ一気に流れ落ちる現象。これにより円盤内縁部の温度が一時的に跳ね上がる。 - 5.ケイ酸塩
岩石の主成分となる鉱物。宇宙空間では主に「非晶質(アモルファス)」として存在するが、高温で加熱されると「結晶質」に変化する。この変化は、その物質が受けた熱履歴を知る指標となる。 - 6.フォルステライト(苦土かんらん石)
ケイ酸塩鉱物の一種である「かんらん石(オリビン)」の中でも、マグネシウムを豊富に含む結晶。地球の深部(マントル)の主成分である他、宇宙空間では高温の環境下で形成されることが知られている。 - 7.エンスタタイト(頑火輝石(がんかきせき))
ケイ酸塩鉱物の一種である「輝石(きせき)」グループに属する鉱物で、マグネシウムを主成分とする結晶。フォルステライトと同様に、岩石惑星の材料となる主要な鉱物の一つ。 - 8.磁気流体力学(MHD)円盤風
磁力線の作用によって円盤表面から物質が吹き出される現象。内側円盤で焼きなましされたちりが風に乗って円盤から吹き出し、外側の低温領域に落下する。MHDはmagnetohydrodynamicの略。
国際共同研究グループ
理化学研究所 開拓研究所 坂井星・惑星形成研究室
研究員 ヤン・ヤオルン(Yao-Lun Yang)
ソウル大学(韓国)
教授 イ・ジョンウン(Jeong-Eun Lee)
研究員 ベク・ギソン(Giseon Baek)
大学院生(博士課程)キム・チョルファン(Chul-Hwan Kim)
大学院生(博士課程)キム・ヨンジュン(Young-Jun Kim)
大学院生(博士課程)イ・ソンジェ(Seonjae Lee)
東京大学 大学院理学系研究科
教授 相川 祐理(アイカワ・ユリ)
韓国天文研究院
研究員 キム・ジェヨン(Jaeyeong Kim)
研究員 イ・ソッコ(Seokho Lee)
宇宙望遠鏡科学研究所(米国)
研究員 ジョエル・グリーン(Joel Green)
北京大学(中国)
教授 グレゴリー・ヘルツェグ(Greg Herczeg)
カナダ国立研究評議会
研究員 ダグ・ジョンストン(Doug Johnstone)
ジェット推進研究所(米国)
研究員 クラウス・ポントピダン(Klaus Pontoppidan)
ライデン大学(オランダ)
研究員 ローガン・フランシス(Logan Francis)
バージニア大学(米国)
研究員 ジン・ミファ(Miwha Jin)
ラドバウド大学(オランダ)
研究員 チャン・ヘリン(Hyerin Jang)
研究支援
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業学術変革領域研究(A)「次世代アストロケミストリー:素過程理解に基づく学理の再構築(研究代表者:坂井南美)」、同基盤研究(A)「同位体観測で探る星間有機分子の起源と進化:太陽系始原物質の理解に向けて(研究代表者:坂井南美)」による支援を受けて行われました。
原論文情報
- Jeong-Eun Lee, Chul-Hwan Kim, Jaeyeong Kim, Seokho Lee, Young-Jun Kim, Seonjae Lee, Giseon Baek, Joel D. Green, Gregory J. Herczeg, Doug Johnstone, Klaus M. Pontoppidan, Yuri Aikawa, Yao-Lun Yang, Logan Francis, Mihwa Jin & Hyerin Jang, "Accretion bursts crystallize silicates in a planet-forming disk", Nature, 10.1038/s41586-025-09939-3
発表者
理化学研究所
開拓研究所 坂井星・惑星形成研究室
研究員 ヤン・ヤオルン(Yao-Lun Yang)
報道担当
理化学研究所 広報部 報道担当
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