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2026年5月28日

理化学研究所
東京大学
テネシー大学
オークリッジ国立研究所

最速でα崩壊するテルル104の寿命測定に成功

-2重魔法核の近傍で極端に強いαクラスターの形成を発見-

理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センター RI物理研究部の西村 俊二 先任研究員、櫻井 博儀 部長、RIビーム分離生成装置チームの福田 直樹 技師、核構造研究部の郷 慎太郎 研究員、東京大学 大学院理学系研究科附属原子核科学研究センターの横山 輪 助教、東京大学 大学院理学系研究科の北村 徳隆 助教、テネシー大学のイアン・コックス 研究員、ロバート・ジバチ 教授、オークリッジ国立研究所のトビアス・キング 研究員らの国際共同研究グループは、非常に寿命の短い放射性同位体(RI)[1]であるテルル104(104Te)のアルファ(α)崩壊[2]を直接測定することに初めて成功し、その半減期[3]が約7.2ナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)であることを明らかにしました。これは、基底状態[4]からα崩壊する原子核として、現在知られている中で最も早い崩壊です。

本研究成果は、原子核におけるαクラスター構造[5]の形成に対する理解を深めるとともに、魔法数[6]近傍の核構造の解明にもつながるものです。

α崩壊は、原子核内部で陽子2個と中性子2個から成るα粒子[7](ヘリウム原子核)が形成され、量子トンネル効果[8]などによって原子核の外へ放出される現象です。国際共同研究グループは、測定された崩壊確率に基づき、原子核内部でα粒子がどの程度形成されているかを示すα粒子形成確率[9]を導出しました。その結果、104Teにおけるα粒子形成確率は、これまでに知られているα崩壊核の中で最も高く、既知の原子核と比較して約2倍に達することが明らかになりました。この高いα粒子形成確率は、104Teが2重魔法核[6]であるスズ100(100Sn)へ崩壊する特異な構造と密接に関係していると考えられます。

本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(5月27日付:日本時間5月28日)に掲載されました。

124Xeから108Xe、104Teを経て2重魔法核100Snに至る過程の図

124Xeから108Xe、104Teを経て2重魔法核100Snに至る過程

背景

アルファ(α)崩壊は、原子核がα粒子(ヘリウム原子核)を放出して別の原子核に変わる現象であり、最も古くから知られている放射性崩壊の一つです。α粒子は陽子2個と中性子2個から成る非常に強く結合した粒子であり、原子核の内部で「クラスター(まとまり)」として形成される可能性があります。しかし、陽子と中性子がほぼ均一に分布している重い原子核の内部で、どのようにα粒子が形成されるのかという根本的な仕組みは、100年以上にわたる研究でも完全には解明されていません。

この問題を理解する上で鍵となるのが、2重魔法核として知られるスズ100(100Sn:陽子数50、中性子数50)近傍の原子核です。特にテルル104(104Te:陽子数52、中性子数52)は、100Snを芯とする特異な構造を持つと考えられており、強い(高い確率での)α粒子形成が起こる可能性が理論的に予測されてきました。

しかし、104Teは極めて短寿命であるため、その生成と直接的な識別は技術的に困難です。そこで本研究では、比較的長い寿命(マイクロ秒(100万分の1秒)オーダー)を持つキセノン108(108Xe:陽子数54、中性子数54)を生成・識別し、その崩壊系列をたどることで104Teの同定を試みました。これは、現時点で直接観測を可能にする唯一の手法です。

一方で、108Xeはキセノン124(124Xe:陽子数54、中性子数70)をベリリウム(9Be:陽子数4、中性子数5)の標的(厚さ6mm)に照射し、中性子のみを16個取り除くという極めてまれな反応によって生成されるため、その生成確率はわずか1,000兆分の1にとどまります。このため、高性能の加速器施設を用いても実験の実現は困難とされ、これまで成功例はありませんでした。さらに、極めて短い時間間隔で連続して起こるα崩壊を確実に捉えるための検出技術にも大きな課題がありました。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」[10]を用いて124Xeのビームを加速し、ベリリウム標的(9Be)に衝突させることで、16個の中性子のみを剝ぎ取り、108Xeを生成しました(図1)。約124時間(約5日)の実験を行い、12個の108Xeを生成・同定することに成功しました。

RIBFとLYSO検出器による124Xeから108Xe、104Teを経ての100Sn変換過程の図

図1 RIBFとLYSO検出器による124Xeから108Xe、104Teを経ての100Sn変換過程

  • (上)RIBFと崩壊測定装置である位置検出型崩壊検出器(LYSO検出器)の配置図。位置検出型崩壊検出器の周囲には、崩壊時に放出されるガンマ線を測定するためのLaBr3(Ce)検出器が配置されている。
  • (下)毎秒約7,500億個の124Xe(①)をベリリウム標的(9Be)に照射し、16個の中性子を剝ぎ取ることで108Xeを生成する(②)。生成した108Xeは下流の崩壊測定装置に輸送され、連続的なα崩壊を経て104Teを経由し、最終的に2重魔法核である100Snに至る過程を捉える(③)。

続いて、非常に寿命の短いα崩壊の測定を可能とする位置検出型崩壊検出器(LYSO検出器)を用いて、打ち込まれた108Xeの到達時間と停止位置を測定し、同じ位置から放出されるα粒子を検出しました。その結果、108Xeは半減期約75マイクロ秒でα崩壊し、104Teへと変換されることを確認しました。

さらに、生成された104Teが極めて短い時間でα粒子を放出し、100Snへと変換する様子を捉えることに成功しました(図2)。本研究により、104Teの半減期が約7.2ナノ秒であることを明らかにしました。これは、基底状態からα崩壊する原子核として、これまでに知られている中で最も短い寿命です。

核図表における変換過程と魔法数の図

図2 核図表における変換過程と魔法数

RIBFを用いて124Xeから16個の中性子を剝ぎ取ることで108Xeを生成した。識別した108Xeのα崩壊を観測することにより、これまで直接観測されていなかった104Teが極めて短い寿命でα崩壊し、2重魔法核100Sn(陽子数Z=50、中性子数N=50)へ変換される様子を捉えた。

さらに、α粒子が原子核内部でどの程度形成されているのか示すα粒子形成の強さを評価した結果、104Teは既知の全ての原子核の中で最も強いα粒子形成を示すことが分かりました。これは、104Teが2重魔法核である100Snに近い構造を持つことに起因すると考えられます。すなわち、104Teの原子核は、強く結合した2重魔法核100Snという特別な安定構造の周囲に、やはり強く結合したα粒子が付加したクラスター構造を取っていると予想される、興味深い現象です(図3)。本研究は、104Teが理論的に予想されていた「超許容α崩壊[11]」の典型例であることを実験的に明確に示しました。

104Teの予想構造の図

図3 104Teの予想構造

104Teは、強く結合した2重魔法核100Snの周囲にα粒子(4He)がクラスター構造を形成していると考えられる。

今後の期待

今回の成果は、重い原子核の内部でどのようにα粒子が形成されるのかという長年の問題に対し、重要な手掛かりを与えるものです。特に、原子核表面の低密度領域でα粒子が形成されるとする理論モデルの検証につながると期待されます。

今後は、魔法数近傍のさまざまな原子核について同様の測定を進めることで、αクラスター形成と原子核構造をより体系的に理解できると期待されます。これにより、原子核におけるクラスター構造の普遍的な形成機構の解明が進むと考えられます。

補足説明

  • 1.放射性同位体(RI)
    物質を構成する原子核の中には、時間とともに放射線を放出しながら安定な原子核になるまで壊変し続けるものがある。このような原子核を放射性同位体と呼ぶ。放射性同位元素、不安定同位体、不安定原子核、不安定核、ラジオアイソトープ(RI)とも呼ばれる。
  • 2.アルファ(α)崩壊
    原子核がヘリウム原子核(陽子2個と中性子2個から成る粒子で、α粒子([7]参照))を放出して、別の原子核に変わる放射性崩壊の一種。主に重い原子核で起こり、原子核物理学において最も古くから研究されている放射性現象の一つ。なお、放出されるα粒子をα線と呼ぶ。
  • 3.半減期
    放射性原子核の数が半分になるまでにかかる時間。原子核の寿命を表す代表的な物理量。
  • 4.基底状態
    原子核が持ち得るエネルギー準位のうち、最もエネルギーが低く、最も安定している状態。
  • 5.αクラスター構造
    原子核の内部で、陽子2個と中性子2個が強く結びつき、α粒子のようなまとまりとして存在する構造注1)。軽い原子核ではよく知られているが、重い原子核でどのように形成されるのかはまだ十分には理解されていない。
  • 6.魔法数、2重魔法核
    陽子や中性子がそれぞれある決まった数を取ると、原子核の構造が格段に安定する。この数字を魔法数と呼び、2、8、20、28、50などが知られている。陽子数と中性子の両方が魔法数となり、特別に安定な数になっている原子核を2重魔法核という。殻構造が閉じているため、非常に安定な構造を持つ。ニッケル78(78Ni:陽子数28、中性子数50)注2、3)、スズ132(132Sn:陽子数50、中性子数82)、鉛208(208Pb:陽子数82、中性子数126)などが代表例。
  • 7.α粒子
    陽子2個と中性子2個から成るヘリウム原子核(4He)。非常に強く結合した粒子で、原子核の中で一つのまとまり(クラスター)として振る舞うことがある。
  • 8.量子トンネル効果
    粒子が波としての性質を持つため、古典力学では越えることができないとされるエネルギー障壁を、確率的に通り抜ける現象。
  • 9.α粒子形成確率
    α崩壊が起こる前に、原子核内部でα粒子が形成されている確率。形成されたα粒子が量子トンネル効果によって原子核の外へ放出されると考えられている。
  • 10.重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」
    理研が運用するRIビーム発生施設と基幹実験装置設備群から成る重イオン加速器施設。これまで生成が困難だったものも含め、約4,000種類のRIを生成できると期待されている。
  • 11.超許容α崩壊
    原子核内部でのα粒子形成確率が非常に大きい場合に起こるα崩壊。通常のα崩壊よりも崩壊確率が高く、寿命が極端に短くなる。

国際共同研究グループ

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
RI物理研究部
先任研究員 西村 俊二(ニシムラ・シュンジ)
部長 櫻井 博儀(サクライ・ヒロヨシ)
RIビーム分離生成装置チーム
技師 福田 直樹(フクダ・ナオキ)
核構造研究部
研究員 郷 慎太郎(ゴウ・シンタロウ)
(開拓研究所 上野核分光研究室)

東京大学
大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター
助教 横山 輪(ヨコヤマ・リン)
大学院理学系研究科
助教 北村 徳隆(キタムラ・ノリタカ)

テネシー大学(米国)
研究員 イアン・コックス(Ian Cox)
教授 ロバート・ジバチ(Robert Grzywacz)

オークリッジ国立研究所(米国)
研究員 トビアス・キング(Tobias King)

本研究には、理化学研究所、東京大学、日本原子力研究開発機構、テネシー大学(米国)、オークリッジ国立研究所(米国)、ローレンス・リバモア国立研究所(米国)、ワルシャワ大学(ポーランド)、ケルン大学(ドイツ)、マドリード・コンプルテンセ大学(スペイン)の研究者から構成される国際共同研究グループ(総勢36名)が参加しました。(順不同)

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業学術変革領域研究(A)「重元素合成過程の解明に向けた重い中性子過剰核の研究(研究代表者:西村俊二、JP25H01273)」、同基盤研究(B)「最先端不安定核生成施設での高純度β核分光法の開発と中性子過剰核の崩壊過程の解明(研究代表者:横山輪、JP24K00655)」、理研・戦略的パートナー連携事業「宇宙と原子核の国際的研究ネットワークの構築(RiNA-Net)(研究代表者:西村俊二)」、米国エネルギー省科学局・原子核物理部門(DOE)、米国国立科学財団(NSF)、ポーランド国立科学研究センターによる助成を受けて行われました。

原論文情報

  • Ian Cox, Robert Grzywacz, T.T. King, K.P. Rykaczewski, S. Nishimura, R. Yokoyama, N. Fukuda, N. Kitamura, S. Go, C. Mazzocchi, J.M. Allmond, A. Augustyn, N. Braukman, P. Brionnet, A. Esmaylyzadeh, J. Fischer, G. Garcia de Lorenzo, S. Hanai, D. Hoskins, N. Imai, K. Kolos, A. Korgul, B. Kreider, S. Michimasa, K. Nishio, V. Phong, T. J. Ruland, H. Sakurai, Y. Shimizu, A. Skruch, H. Suzuki, H. Takeda, Y. Togano, Z.Y. Xu, M. Yoshimoto, "Direct observation of the superallowed α decay of 104Te", Nature, 10.1038/s41586-026-10581-w

発表者

理化学研究所
仁科加速器科学研究センター
RI物理研究部
先任研究員 西村 俊二(ニシムラ・シュンジ)
部長 櫻井 博儀(サクライ・ヒロヨシ)
RIビーム分離生成装置チーム 技師 福田 直樹(フクダ・ナオキ)
核構造研究部
研究員 郷 慎太郎(ゴウ・シンタロウ)

東京大学
大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター
助教 横山 輪(ヨコヤマ・リン)
大学院理学系研究科
助教 北村 徳隆(キタムラ・ノリタカ)

テネシー大学(米国)
研究員 イアン・コックス(Ian Cox)
教授 ロバート・ジバチ(Robert Grzywacz)

オークリッジ国立研究所(米国)
研究員 トビアス・キング(Tobias King)

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室
Tel: 03-5841-7585
Email: media.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp

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