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2026年6月25日

理化学研究所

酸化物界面で「リエントラント超伝導」を発見

-特異な超伝導状態を研究する新たな物質基盤を確立-

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター 強相関界面研究グループのデニス・マリエンコ 上級研究員、川﨑 雅司 グループディレクター、トポロジカルエレクトロニクス研究チームの川村 稔 チームディレクターらの国際共同研究グループは、異種の酸化物界面(酸化物ヘテロ構造)[1]において、磁場の増大に伴い一度消失した超伝導が再び現れる「リエントラント超伝導[2]」を発見しました。

リエントラント超伝導を発現する異種の酸化物界面は、電気的に制御できる上、多層構造へ組み込むことも可能であり、磁場の影響下における超伝導状態を調べる有望な研究基盤になると期待されます。

通常、超伝導は磁場によって弱められ消失しますが、本研究では一度消失した超伝導がさらに強い磁場をかけることによって再発現することを観測しました。この現象はリエントラント超伝導と呼ばれ、従来は、界面や薄膜ではなく、3次元的な結晶内部で超伝導を示す特殊な材料でのみ報告されてきました。

今回、国際共同研究グループは、この特異な挙動が酸化物界面の2次元電子系[3]でも生じることを、2種類の酸化物材料界面に2次元電子系を形成した実験で示しました。これは、リエントラント超伝導が人工的に設計された超伝導構造でも実現することを示す成果です。

本研究は、科学雑誌『Science Advances』オンライン版(6月24日付:日本時間6月25日)に掲載されました。

酸化物界面の2次元電子系とリエントラント超伝導現象の概念図の画像

酸化物界面の2次元電子系とリエントラント超伝導現象の概念図

背景

超伝導は、電気抵抗が完全に消失し、エネルギー損失なく電流が流れる量子現象です。量子技術への応用が期待されることから、その特性や外部環境に対する応答を理解することは重要な研究課題となっています。超伝導状態を変化させる代表的な手段の一つが磁場であり、通常は磁場を強くすると超伝導は弱まり、最終的に消失します。

ところが、一部の特殊な材料では、比較的低い磁場で消えた超伝導が、さらに高い磁場で再び現れることが知られており、「リエントラント超伝導」と呼ばれています。この現象は限られた材料系でのみ報告されており、磁場によって超伝導状態が通常とは異なる特殊な状態へ変化していることを示唆していることから、物性物理学における重要な研究対象となっています。

これまでリエントラント超伝導は、主に3次元結晶全体が超伝導特性を示すバルク材料において観測されてきました。一方で、近年の材料科学の進展により、超伝導の研究は酸化物界面に形成された2次元電子系へと広がりを見せています。こうした界面系は、バルク材料とは異なり、人工的な設計や集積化が可能である点が大きな特徴です。特に、電気的な操作によって超伝導特性を制御できるKTaO3(タンタル酸カリウム)界面は、次世代デバイスへの応用が期待される制御可能な舞台として大きな注目を集めています。

そこで本研究では、リエントラント超伝導が酸化物界面の2次元電子系でも発現するか検証しました。これが実現すれば、これまで特別なバルク材料に限定されていた特異な超伝導現象を、制御可能な人工構造体の中で自在に研究・操作する可能性が開かれます。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、2次元界面系でリエントラント超伝導が発現するかを調べるため、エピタキシャル成長法[4]を用いてLaTiO3(チタン酸ランタン)とKTaO3から成る酸化物ヘテロ構造を作製しました。これらの酸化物の界面には、2次元電子系が形成されます。また、試料裏面から電圧を加えることで、界面の電子数を制御できるバックゲート電圧制御[5]が可能な構造としました(図1)。

LaTiO3/KTaO3酸化物界面デバイスの概念図の画像

図1 LaTiO3/KTaO3酸化物界面デバイスの概念図

LaTiO3(チタン酸ランタン)とKTaO3(タンタル酸カリウム)から成る酸化物ヘテロ構造の試料を作製した。2種の酸化物の界面には2次元電子系が形成される。試料裏面から電圧を加えることで、界面の電子数を制御できるバックゲート電圧制御が可能な構造とした。

国際共同研究グループは、希釈冷凍機[6]を用いて酸化物界面デバイス(図2A)を0.1ケルビン(温度の単位。0ケルビンはセ氏マイナス273.15℃に相当する)以下まで冷却し、界面の2次元電子系に微小な電流を流しながら、温度、バックゲート電圧、磁場を変化させて電気抵抗を測定しました。温度を下げていくと、電気抵抗がゼロになる超伝導転移が観測されました(図2B)。さらに、いくつかの異なるバックゲート電圧下で超伝導転移を観測すると、電気抵抗が消失する温度が系統的に変化していることが分かります。この結果は、界面の超伝導状態がバックゲート電圧制御によって変調可能であることを示しています。

酸化物界面デバイスとバックゲート電圧制御による超伝導特性の変化の図

図2 酸化物界面デバイスとバックゲート電圧制御による超伝導特性の変化

(A)酸化物界面デバイスの光学顕微鏡写真。(B)いくつかの異なるバックゲート電圧下で測定した電気抵抗の温度依存性。

さらに国際共同研究グループは、磁場の影響下における超伝導の振る舞いを調べました。界面に平行な方向へ磁場をかけると、磁場の増加に伴い超伝導状態はいったん消失します。しかし、予想に反して、約1テスラ(磁束密度の単位)以上のより高い磁場領域で、超伝導が再び現れました(図3)。

リエントラント超伝導の振る舞いの図

図3 リエントラント超伝導の振る舞い

超伝導状態(青色)は0.9テスラ付近でいったん壊れるが、さらに強い磁場で再び発現する。規格化抵抗:抵抗を高温の抵抗値で規格化したもの。

このリエントラント超伝導の振る舞いは、広いバックゲート電圧範囲および温度範囲にわたって観測されました。さらに、超伝導が再発現する磁場は、超伝導転移温度の変化によらずほぼ一定であり、この現象が偶然の効果ではなく、系に固有の性質であることが示されました。

今後の期待

今回観測されたリエントラント超伝導は、本研究で用いた酸化物界面の2次元電子系における超伝導状態が磁場の影響下で特殊な状態へと変化している可能性を示唆しています。リエントラント超伝導は未解明な超伝導状態と関連して現れる場合が多いと考えられているため、この状態の本質を理解することは、今後の重要な課題です。

また、本研究で用いた系はエピタキシャル成長によって人工的に設計された界面構造です。バルク材料とは異なり、このような構造では他材料との集積化や設計の自由度が高く、磁性や誘電性を有する多層構造に組み込むなど、超伝導状態を取り巻く環境を制御しながらその振る舞いを詳細に調べることができます。

このような特異な超伝導状態を人工構造体中で生成・制御できることは、量子状態の操作が重要となる将来の量子技術において、大きな意義を持つと期待されます。

補足説明

  • 1.酸化物界面(酸化物ヘテロ構造)
    異なる酸化物材料を積層することで形成される界面構造。この界面では、各材料単独では見られない新たな電子状態や機能が発現することがある。
  • 2.リエントラント超伝導
    磁場などの外部条件によって一度抑制された超伝導が、さらに条件を強めることで再び発現する現象。通常の超伝導のように単調に消失するのではなく、超伝導状態がいったん崩れた後に再び発現するという特異な振る舞いを示す。
  • 3.2次元電子系
    電子が極めて薄い層内に閉じ込められ、その運動が実質的に2次元面内に制限された電子系。バルク材料とは異なる量子効果や特異な電子物性が現れることが多い。
  • 4.エピタキシャル成長法
    結晶基板上に、基板の結晶方位に整合させながら薄膜結晶を成長させる作製技術。結晶構造や組成を原子レベルで高精度に制御できる。
  • 5.バックゲート電圧制御
    試料裏面から電圧を加えることで、材料中の電子数を制御する手法。材料そのものを変えることなく、超伝導を含む電子状態を連続的に調整できる。
  • 6.希釈冷凍機
    低温環境を実現するために用いられる冷却装置。通常は0.1ケルビン以下の超低温領域まで冷却可能である。

国際共同研究グループ

理化学研究所 創発物性科学研究センター
強相関界面研究グループ
上級研究員 デニス・マリエンコ(Denis Maryenko)
グループディレクター 川﨑 雅司(カワサキ・マサシ)
(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
トポロジカルエレクトロニクス研究チーム
チームディレクター 川村 稔(カワムラ・ミノル)
強相関物質研究グループ
上級研究員 マルクス・クリーナー(Markus Kriener)

マルティンルター大学(ドイツ)
シニアサイエンティスト イゴール・マズニチェンコ(Igor Maznichenko)
ゲストサイエンティスト セルゲイ・オスタニン(Sergey Ostanin)

清華大学(中国)
副教授 ディン・ジャン(Ding Zhang)

ジェシュフ工科大学(ポーランド)
教授 ビタリ・デゥガエフ(Vitalii K. Dugaev)

バスク大学(スペイン)
教授 エフゲニー・シャーマン(Evgeny Ya. Sherman)

ヨハネスケプラー大学(オーストリア)
教授 アーサー・エルンスト(Arthur Ernst)

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(S)「高品質単結晶薄膜・界面による金属ハライドX-nicsの基盤構築(研究代表者:川﨑雅司、JP22H04958)」などによる助成を受けて行われました。

原論文情報

  • Denis Maryenko, Minoru Kawamura, Igor V. Maznichenko, Sergey Ostanin, Ding Zhang, Markus Kriener, Vitalii K. Dugaev, Evgeny Ya. Sherman, Arthur Ernst, Masashi Kawasaki, "Re-entrant superconductivity at an oxide heterointerface", Science Advances, 10.1126/sciadv.aeg0460

発表者

理化学研究所
創発物性科学研究センター
強相関界面研究グループ
上級研究員 デニス・マリエンコ(Denis Maryenko)
グループディレクター 川﨑 雅司(カワサキ・マサシ)
トポロジカルエレクトロニクス研究チーム
チームディレクター 川村 稔(カワムラ・ミノル)

デニス・マリエンコ 上級研究員の写真 デニス・マリエンコ
川﨑 雅司 グループディレクターの写真 川﨑 雅司
川村 稔 チームディレクターの写真 川村 稔

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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