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2026年7月17日

理化学研究所
東北大学

世界の少子化は二つの普遍的経路に沿って進む

-教育コストの削減が出生率を回復させる可能性-

理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター理研CBS-トヨタ連携センター計算論的集団力学連携ユニットの板尾健司客員研究員(東北大学学際科学フロンティア研究所助教)は、各国の人口データを分析し、世界中の少子化について、平均寿命と粗出生率(1,000人当たりの出生数)の間に二つの普遍的な関係を発見し、それらを引き起こす支配的なメカニズムの候補を提案しました。

本研究成果は、シンプルかつ普遍的な枠組みで少子化を理解するとともに、少子化対策の効果を理論的に予測することを可能にし、今後の人口政策に貢献することが期待されます。

今回、板尾客員研究員は、237の国と地域における平均寿命と粗出生率の関係を分析し、少子化の過程には、平均寿命と粗出生率が反比例する[1]Iと、平均寿命が伸びるにつれて粗出生率が指数的に減少する相IIがあることを発見しました。そして、各国の寿命と出生率の変化の軌跡は、二つの普遍的な経路のいずれかに沿うことを明らかにしました。さらに、数理モデルによってこれらの相を生み出すメカニズムの候補を提案するとともに、家計が負担する教育コストの削減が出生率回復のために有効である可能性を示しました。

本研究は、科学雑誌『Evolutionary Human Sciences』オンライン版(7月7日)に掲載されました。

人口転換の二つの普遍的経路の図

人口転換の二つの普遍的経路

背景

近年、世界中の極めて多くの国で少子化が起きています。人口学[2]では、近代化に伴って、まず医療やインフラの改善によって死亡率が減少して人口規模が増大し、その後しばらくして出生率が減少して人口成長が鈍り、一部の国ではさらに出生率が低下して人口規模が縮小し始めていることが知られています。この過程のことを「人口転換[3]」と呼びます。

人口転換は多くの国で繰り返し観察されています。特に先進国では、20世紀前半までに女性1人当たりの子どもの数(合計特殊出生率[4])が2程度まで下がる第一次人口転換、戦後に出生率がさらに低下して人口減少が起こる第二次人口転換がしばしば見られています。ただ、戦後に少子化が始まった発展途上国でもこのような二段階の人口転換が起きているのか、そこに共通のメカニズムはあるのかなどは不明でした。

これまで、少子化のメカニズムについては、人口学の他にも、生物学や経済学の観点からさまざまな説明がなされてきました。少子化対策を考えるには、それぞれの地域で支配的に働いているメカニズムを知り、同じメカニズムが働いている地域の事例から学ぶ必要があります。メカニズムが違っていれば、ある地域で有効な対策でも、別の地域では効果が限定的になってしまうでしょう。そこでまず、世界各国での少子化をいくつかのパターンに分類し、それぞれのパターンでいかなるメカニズムが働いているかを理解しなければなりません。

研究手法と成果

板尾客員研究員は、世界の237の国と地域の人口データを用いて、平均寿命(出生時の平均余命)と粗出生率(1,000人当たりの出生数)の関係を分析しました(図1(a))。その結果、平均寿命と粗出生率の間に、時代や地域を問わずに繰り返し現れる規則的な関係があることを発見しました。そこで、統計的な手法により、人口データに主要なパターンがあるのか、あるとすればいくつのパターンに分類できるのかを調べました。すると、データを1949年以前と1950年以後の二つに分けると人口データのパターンをよく説明できることが明らかになり、それをもとに人口転換の相を定義しました。

人口転換の二つの普遍的経路の図

図1 人口転換の二つの普遍的経路

  • (a)237の国と地域の人口データをもとに作成した、平均寿命と粗出生率の関係。古い(色が薄い)データと新しい(色が濃い)データは異なる傾向を持って分布している。
  • (b)1949年以前(赤)・1950年以後(青)のデータのフィッティング。1949年以前のデータは平均寿命と粗出生率が反比例の関係にあり、1950年以後のデータは指数関数的な関係にある。
  • (c)各国の人口転換の経路。多くの国は(b)で得られた二つの普遍的経路のいずれかに沿う。

1949年以前のデータ(相I)は平均寿命e0と粗出生率λがおおよそ反比例の関係にあることが明らかになりました(図1(b))。これは、平均寿命が伸びるにつれて粗出生率が緩やかに下がっていくことを意味します。一方で、1950年以後のデータ(相II)は、平均寿命の伸びに対し、粗出生率が急激に(指数関数的に)減少していました(図1(b))。

さらに、国ごとの平均寿命と粗出生率の変化を分析すると、その多くがこの二つの曲線のいずれかに沿っていることが分かりました(図1(c))。つまり、これらの曲線は人口転換の「普遍的な経路」であることが明らかになりました。

また、先進国の第一次人口転換は主に相I、第二次人口転換は相IIに対応することが判明しました。一方で、発展途上国の多くは相Iを経ず、初めから相IIの経路に沿った人口転換が起きていることも明らかになりました。この結果は、第一次・第二次という既存の枠組みを全世界に当てはめるには限界があること、そして発展途上国の少子化は先進国の第一次人口転換よりもむしろ第二次人口転換に近いものであることを示唆しています。

このような普遍性が生まれる仕組みを調べるために、子どもの数と教育への投資に関する世帯ごとの意思決定を数理モデルで解析しました(図2)。先行研究注)で、戦後に教育投資が過熱したことが第二次人口転換における急速な少子化の要因の一つだと示唆されていたためです。モデルでは、親が一定の予算制約の下で、子どもを何人持つかと、子どもにどれだけの期間教育を受けさせ、どれだけの期間生産に従事させるかを決定します。子どもの生存と教育には予算が必要で、教育を受けた子どもは生産に従事する期間は減るものの効率よく生産するようになります。そして、親は子どもたちの総生産性を最大化するように子どもの数と教育期間を決めると仮定しました。

子どもの数と教育投資のトレードオフを考慮した数理モデル。の図

図2 子どもの数と教育投資のトレードオフを考慮した数理モデル。

子どもの生存と教育にはコストがかかる。教育を受けると子どもが生産活動に従事する時間は短くなるが生産効率が上昇する。親は一定の予算制約のもとで、子どもたちの総生産性を最大化するように子どもの数と教育期間を決定する。モデルは二つの経路を再現する。

モデルの解析により、子どもの寿命が短い条件では、追加的な教育投資を行わずに、生産活動に充てる期間を長くするようになること、そしてこの場合に平均寿命と粗出生率が反比例することが明らかになりました。一方で、平均寿命が一定の値を超えると、子どもの数を減らしてでも教育に投資するようになり、平均寿命が伸びるにつれて粗出生率が指数関数的に減少することが示されました。この結果は、相Iが予算制約(あるいは資源の制約)の下で子どもの数を最大化するというメカニズムによって生まれ、相IIが同様の制約の下で子どもの教育水準を上げることで子どもの生産性を高めるというメカニズムによって生まれている可能性を示唆します。

さらに、子どもの数が教育コストや効果(教育によって生産の効率がどれだけ上がるか)にどのように依存するかを調べた結果、教育水準を保ったまま粗出生率を回復するためには、教育コストの家計負担を下げることが有効である可能性が示されました。国際データの比較でも、実際に教育コストが低い地域ほど粗出生率が高い傾向が見られました。

  • 注)Lesthaeghe, Ron. "The second demographic transition: A concise overview of its development." Proceedings of the National Academy of Sciences 111.1 (2014): 18112-18115

今後の期待

本研究は世界中の少子化に二つの普遍的なパターンがあることを解明し、それらを生むメカニズムの候補を提案し、教育コストの家計負担を下げることが出生率回復につながる可能性を示唆します。ただし、この研究は国ごとのデータを解析したに過ぎず、国の内部での年齢・所得・教育水準などによる少子化傾向の多様性は捉えきれていません。また、教育コストと粗出生率の関係も相関を示しただけで、実際に教育コストを下げたときに粗出生率が上昇するかという因果関係は不明です。そのため、今後の研究によって、国よりも細かい単位でも人口パターンが二つの相に分類できるのか、実際に教育コストを下げる政策が粗出生率を回復させるのかを調べる必要があります。本研究は、世界中の少子化を統一的に扱うための理論的な枠組みを提供するものであり、今後の詳細な調査によってどのような対策が現実に有効なのかが明らかになると期待されます。

補足説明

  • 1.
    統計物理学の概念。多数の要素が相互作用する集団について、その全体的な性質のパターンを分類したもの。例えば氷と水と水蒸気は、水の固相、液相、気相と分類される。集団の相が変わると、全体的な性質が劇的に変化する。
  • 2.人口学
    人口の状態を説明する学問。特に、出生や死亡による人口の増減や、年齢構造の変化を扱う。
  • 3.人口転換
    近代化に伴う人口構造の変化。近代化に伴って、出生率と死亡率が共に高い多産多死社会から、まず死亡率が下がった多産少死社会、次いで出生率も下がった少産少死社会に至る過程のこと。
  • 4.合計特殊出生率
    ある年の年齢別出生率をもとに、1人の女性が生涯に産む子どもの数を推計した指標。具体的には、15歳から49歳までの女性について、各年齢の出生率を合計して算出する。実際に1人の女性が産んだ子どもの数ではなく、その年の出生状況が将来も続くと仮定した場合の平均的な子どもの数を示していることに注意。

研究支援

本研究は、理化学研究所基礎科学特別研究員研究費(研究代表者:板尾健司、202401061006)により実施し、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業特別研究員奨励費「家族構造と社会構造の生成における普遍性(研究代表者:板尾健司、JP22KJ0639)」の助成を受けて行われました。

原論文情報

  • Kenji Itao, "Two universal pathways in demographic transition", Evolutionary Human Sciences, 10.1017/ehs.2026.10054

発表者

理化学研究所
脳神経科学研究センター 理研CBS-トヨタ連携センター
計算論的集団力学連携ユニット
客員研究員 板尾 健司(イタオ・ケンジ)
(東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教)

板尾 健司 客員研究員の写真 板尾 健司

発表者のコメント

本研究では多様なデータが共通して従う普遍的な性質を探究する統計物理学の方法を人口学に応用しました。その結果、多くの国の傾向が、二つのシンプルなパターンでよく説明できたことには大変驚きました。さらに、あくまで理論的な結果とはいえ、少子化対策として教育コストの低下が有用であるという具体的な提案ができた点にも満足しています。(板尾 健司)

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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