理化学研究所(理研)数理創造研究センター 数理基礎部門の澤田 涼 基礎科学特別研究員らの共同研究グループは、2023年10月に発見されたIbn型超新星[1]「SN 2023uqf[2]」が、南極のニュートリノ観測装置「アイスキューブ(IceCube)[3]」で同時期に検出された高エネルギーニュートリノ[4]事象「IC-231004A[5]」の発生源となり得るかを理論的に検証しました。本研究はIC-231004Aの発生源がSN 2023uqfであると断定するものではありませんが、Ibn型超新星が、宇宙の巨大粒子加速器のように働く「ペバトロン(PeVatron)[6]」である可能性を示しました。
本研究成果は、SN 2023uqfの可視光観測から推定される爆発環境が、高エネルギーニュートリノの生成条件を満たし得ることを示し、世界最大の加速器のおよそ140倍にもなるPeV[7]級の高エネルギー粒子を加速できる可能性を示しました。本成果は、可視光観測とニュートリノ観測を理論モデルによって結び付け、宇宙線の起源を探る新たな研究アプローチを示したものです。
今回、共同研究グループは、可視光観測の結果を再現する放射流体シミュレーションを行い、SN 2023uqfの爆発衝撃波が周囲の濃いガスと衝突していたと仮定すると、観測された明るさと、その後の急激な減光を説明できることを示しました。この衝突環境から得られた衝撃波の性質を用いて粒子加速とニュートリノ生成を計算し、数理モデルから予測されるニュートリノの発生しやすい時期とエネルギーは、IC-231004Aの検出時刻およびエネルギーと整合的であることが分かりました。
本研究は、科学雑誌『The Astrophysical Journal Letters』オンライン版(7月8日付)に掲載されました。
超新星 SN 2023uqf方向から南極のIceCubeへ高エネルギーニュートリノが到来
背景
地球には、非常に高いエネルギーを持つ粒子が宇宙から常に飛来しています。これらは宇宙線と呼ばれますが、電気を帯びているため、宇宙空間の磁場で進行方向が曲げられます。そのため、どの天体でつくられたのかを直接たどることは困難です。
一方、ニュートリノは物質とほとんど反応せず、電気を帯びていないため、発生源からほぼ直進して地球に届きます。このため、高エネルギーニュートリノは、宇宙線の発生源を探る有力な手掛かりです。南極に設置されたIceCubeは、このような高エネルギーニュートリノを観測する大型検出器です。
近年、超新星爆発が高エネルギー粒子を加速する天体候補として注目されています。特に、爆発で生じた衝撃波が、爆発前に星の周囲へ放出された濃いガスと衝突する場合、粒子が非常に高いエネルギーまで加速される可能性があります。
SN 2023uqfは、Ibn型超新星と呼ばれる種類の天体です。この天体は明るくなった後、短期間で急速に暗くなる特徴を持っており、周囲に存在する濃いガスと爆発後の衝撃波の相互作用が強かった可能性があります。また、IceCubeが検出した高エネルギーニュートリノ事象IC-231004Aと、方向および時刻が近いことが報告されていました。
そこで共同研究グループは、SN 2023uqfの光の変化から爆発環境を推定し、その環境が高エネルギーニュートリノを生み出し得るかを検証しました。
研究手法と成果
共同研究グループはまず、SN 2023uqfの可視光観測を再現するため、1次元放射流体シミュレーションを行いました。放射流体シミュレーションとは、爆発で生じた衝撃波の運動と、そこから放たれる光を同時に計算する方法です。
その結果、SN 2023uqfの明るく急速に変化する光度曲線は、爆発した星の周囲に高密度のヘリウムを多く含むガスが存在し、衝撃波がそれと衝突していた場合に説明できることが分かりました。このモデルから、衝撃波の半径、速度、衝撃波が通過するガスの密度を時間ごとに求めました。
次に、得られた衝撃波の情報を用いて、粒子加速とニュートリノ生成を計算しました。衝撃波がガス中を進むと、ある時点から高エネルギー粒子を効率的に加速できる状態になります。計算の結果、SN 2023uqfでは爆発後の短い期間に、PeV級の粒子加速と効率的なニュートリノ生成が同時に起こり得ることが分かりました。
さらに、IceCubeはニュートリノのエネルギーや到来方向によって検出のしやすさが異なります。そこで、理論モデルが予測したニュートリノ量に、IceCubeの検出効率を組み込み、実際に何件程度検出されるかを計算しました。その結果、SN 2023uqfの距離では、IceCubeで検出されるニュートリノは多くても1万回に1回検出できる程度であり、検出は非常にまれであることが分かりました。従って、本研究はIC-231004AとSN 2023uqfの関連を統計的に確立することはできません。
一方で、仮にSN 2023uqfから1件のニュートリノが検出されたと条件づけると、その検出されやすい時期は、IC-231004Aの観測時刻と重なっていました。また、IC-231004Aのエネルギーも、理論モデルが予測するニュートリノのエネルギー範囲と整合的でした。これにより、SN 2023uqfの可視光観測から推定される爆発環境は、IC-231004Aの時刻とエネルギーを説明し得ることが示されました。
本研究の重要な点は、単に超新星とニュートリノが天球面上の同じ方向からほぼ同じ時期に観測されたという一致だけでなく、可視光観測から推定した衝撃波の物理状態を使って、高エネルギーニュートリノを生み出せるかを検証した点です。これにより、超新星を高エネルギーニュートリノ源として調べるための、観測と理論をつなぐ方法を示しました。
今後の期待
本研究は、Ibn型超新星がPeVatronの候補と成り得ることを、個別の天体について具体的に検証したものです。今後、同様の超新星をより多く調べることで、どのような爆発環境が高エネルギーニュートリノを生み出しやすいのかを統計的に明らかにできる可能性があります。
特に、爆発直後の可視光観測に加えて、X線、電波、ニュートリノによる観測を組み合わせることが重要です。これにより、超新星の衝撃波がいつ粒子加速を始め、どの程度のエネルギーまで粒子を加速できるのかを、より厳密に調べることができます。
将来的には、IceCubeに加えてKM3NeT[8]やBaikal-GVD[8]などのニュートリノ観測装置、さらに超新星をはじめとする突発天体の大規模な観測(サーベイ)を組み合わせることで、超新星と高エネルギーニュートリノの関係をより体系的に検証できると期待されます。本成果は、宇宙線の起源を探る新たな研究アプローチを示したものです。
補足説明
- 1.Ibn型超新星
超新星の一種で、スペクトルにヘリウムに由来する特徴を示す。爆発した星の周囲にヘリウムを多く含むガスが存在し、爆発後の衝撃波と強く相互作用していると考えられる。 - 2.SN 2023uqf
2023年10月4日にIceCube([3]参照)が検出した高エネルギーニュートリノ事象IC-231004A([5]参照)の追跡観測として、翌10月5日に米国パロマ天文台にある「ツビッキー突発天体観測施設(Zwicky Transient Facility)」の可視光観測で発見された超新星。しし座方向に位置し、地球からの距離は約24億光年(723メガパーセク(Mpc、1Mpcは100万パーセク、1パーセク は3.26光年))と推定されている。 - 3.アイスキューブ(IceCube)
南極点付近の氷床内、深さ約1,450~2,450メートルに5,160個の光センサーを配置し、約1立方キロメートルの氷を検出体として用いるニュートリノ観測装置。宇宙から飛来する高エネルギーニュートリノ([4]参照)を検出することを目的としている。2010年に完成し、2013年に宇宙起源の高エネルギーニュートリノを初めて報告した。 - 4.高エネルギーニュートリノ
非常に高いエネルギーを持つニュートリノ。物質とほとんど反応せず、電気を帯びていないため、発生源からほぼ直進して地球へ届く。 - 5.IC-231004A
IceCubeが2023年10月4日14時39分41秒(世界時)に検出した高エネルギーニュートリノ候補。推定エネルギーは約442テラ電子ボルト(TeV、1TeVは1兆電子ボルト)で、飛来方向の不確定領域内を追跡観測した結果、SN 2023uqfが発見された。 - 6.ペバトロン(PeVatron)
粒子をPeV([7]参照)級のエネルギーまで加速できる天体または環境のこと。ペバトロンの同定は、高エネルギー宇宙線がどこでつくられるのかを明らかにする上で重要である。 - 7.PeV
ネルギーの単位。1 PeV(ペタ電子ボルト)は1,000テラ電子ボルトに相当し、欧州原子核研究機構(CERN)に設置されている世界最大の加速器LHC(大型ハドロン衝突型加速器)で加速される実験室系で見た陽子1個のエネルギーのおよそ140倍である。宇宙線など、極めて高いエネルギーを持つ粒子を表す際に用いられる - 8.KM3NeT、Baikal-GVD
KM3NeTは地中海の深海に建設中のニュートリノ観測施設で、高エネルギー宇宙ニュートリノを観測するARCA検出器などから成る。Baikal-GVDはロシアのバイカル湖深部に設置され拡張が進められている大型ニュートリノ観測装置。ともに、IceCubeに加え、今後整備が進む他の大型ニュートリノ観測装置。
共同研究グループ
理化学研究所 数理創造研究センター 数理基礎部門
基礎科学特別研究員 澤田 涼(サワダ・リョウ)
京都大学 大学院理学研究科
博士後期課程学生 井上 裕介(イノウエ・ユウスケ)
東北大学 大学院理学研究科
助教 芦田 洋輔(アシダ・ヨウスケ)
東北大学 大学院理学研究科
助教 芦田 洋輔(アシダ・ヨウスケ)
研究支援
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業若手研究「高エネルギー天体における核合成過程を基盤とした新たな太陽系形成理論の創成(研究代表者:澤田涼、JP26K17189)」、同特別研究員奨励費「超新星の多波長放射と超新星爆発直前の親星光度変動から迫る、大質量星の終末期進化(研究代表者:井上裕介、JP25KJ1472)」、2026年度稲盛研究助成「Incubate」コース(芦田洋輔)による助成を受けて行われました。
原論文情報
- Ryo Sawada, Yusuke Inoue, Yosuke Ashida, "Interaction-powered Type Ibn Supernovae as a Transient PeVatron Candidate: The Case of SN 2023uqf", The Astrophysical Journal Letters, 10.3847/2041-8213/ae80bd
発表者
理化学研究所
数理創造研究センター 数理基礎部門
基礎科学特別研究員 澤田 涼(サワダ・リョウ)
澤田 涼
発表者のコメント
超新星とニュートリノの関係を議論する際には、天球面上での到来方向や到来時刻が近いだけでなく、その天体が実際に高エネルギー粒子を加速できる環境を持っていたかを調べることが重要です。本研究では、SN 2023uqfの可視光観測から衝撃波の状態を推定し、その情報を用いてニュートリノ生成を検証しました。今回の結果は両者の関連を統計的に確立することはできませんが、超新星を高エネルギーニュートリノ源として調べるための具体的な手順を示すものです。
共同研究者の芦田さんとは大学時代からの同級生で、その後は異なる専攻で研究を続けてきました。約10年を経て、井上さんとともに共著論文をまとめられたことを感慨深く思います。(澤田 涼)
報道担当
理化学研究所 広報部 報道担当
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