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2026年9月19日

理化学研究所

肌や電子素子に負担をかけない伸縮・通気導電フィルム

-肌上でつなぎ、蒸れずに5倍伸ばせる構造の開発に成功-

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チームの李 成薫 研究員(開拓研究所 染谷薄膜素子研究室 研究員)、染谷 隆夫 チームディレクター(開拓研究所 染谷薄膜素子研究室 主任研究員)らの共同研究グループは、熱や圧力を加えることなく接合でき、500%以上の伸縮性と高い通気性を併せ持つナノスケールの異方性導電フィルム(ACF)[1]の開発に成功しました。

本研究成果は、熱や圧力に弱い生体組織や超薄型デバイスを損傷させることなく集積・配線できる技術として、次世代の皮膚貼付型バイオモニタリングデバイスやソフトロボットの開発に貢献すると期待できます。

今回、共同研究グループは、規則的な円盤状の金属ナノワイヤ[2]エラストマー[3]を含浸(がんしん、しみ込ませること)させた、厚さ約300ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)のACFを開発しました。本フィルムは厚み方向のみに導電し、面内方向では絶縁性を保つ異方性導電を備えています。エタノールなどの揮発性液体を利用して大気中・常温・無加圧で密着させる技術により、対象物に負荷をかけず微細な凹凸面へ接合できます。500%を超える引張ひずみ[4]を加えても厚み方向の導通を維持し、通気性(水蒸気透過率[5])は1,200g/m2/day(水蒸気が対象1平方メートル当たり1日に透過するグラム数)と高い値を示しました。本フィルムを用いて伸縮配線上に発光素子を実装し、500%引き伸ばした状態でも発光を維持することや、ヒトの手首皮膚上で伸縮配線同士を直接接続して正常に動作することも実証しました。

本研究は、科学雑誌『Science Advances』オンライン版(9月18日付:日本時間9月19日)に掲載されました。

伸縮/通気ACFの構造と皮膚に貼り付けた様子の図

伸縮/通気ACFの構造(左)と皮膚に貼り付けた様子(右)

背景

近年、皮膚などの生体組織に密着させて生体信号を計測するウェアラブルデバイスや、柔軟に変形するソフトロボットの実用化に向けた研究が進んでいます。ウェアラブルデバイスにおいて、生体への装着負荷を減らし、日常的かつ高精度にモニタリングを行うためには、個々の電子素子の極薄化・柔軟化に加え、それらを破損させることなく高密度に配線・集積する実装技術が不可欠です。

電子素子同士を接続する手法として、樹脂中に導電性がある粒子を分散させたACFが普及しています。また、近年ではエラストマー素材等を用いて伸縮性を付与したACFの開発も進められています。

しかし、従来のACFは数マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)以上の厚みを持つものが多く、接合部の剛性増加によってデバイス本来の柔軟性が損なわれるという問題がありました。さらに、接合時に熱や圧力、紫外線の照射を必要とするため、刺激に弱い生体組織や超薄型デバイスに損傷を与えるリスクがありました。また、厚みのあるフィルムは通気性が低く、皮膚貼付時に汗が蒸れてかぶれの原因となるなど、生体適合性の観点での課題もありました。

研究手法と成果

共同研究グループは、金属ナノワイヤの一種である銀ナノワイヤ(AgNWs)をスプレー塗布し、規則的な円盤状パターンを形成しました。その上からエラストマーであるスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体(SEBS)を含浸・成膜することで、膜厚約300nmの極薄な異方性導電フィルムを作製しました(図1a)。SEBSの塗布濃度を最適化することで、銀ナノワイヤの一部がフィルム表面に適度に露出し、厚み方向のみに導通しつつ面内方向では絶縁性を保つ異方導電構造が実現しました。銀ナノワイヤの円盤構造がフィルムの伸びに追従して変形するため、500%を超える引張ひずみを加えても破損しませんでした(図1b)。

伸縮/通気ACFの作製プロセスと引張時の構造変化の図

図1 伸縮/通気ACFの作製プロセスと引張時の構造変化

本フィルムは金属ナノワイヤ円盤中にエラストマーを含浸させ作製し、この複合構造はフィルムの伸びに追従して変形可能である。(a)本フィルムの作製プロセス図。(b)本フィルムの引張時の様子。500%引張時にも、複合構造がフィルム変形に追従し変形する。

また、エタノールの揮発を利用して大気中・常温・無加圧で接合できる技術を適用することで、電極フィルム同士を隙間なく接合させることに成功しました(図2a)。接合後も高い柔軟性が維持されるため、曲率半径500μmの波状曲面やヒトの皮膚のような微細な凹凸面にも密着します(図2b)。さらに、通気性の指標である水蒸気透過率は一般的な皮膚貼付用医療フィルムを上回る1,200g/m2/dayを達成しました(図2c)。

接合プロセスと高い生体適合性の図

図2 接合プロセスと高い生体適合性

本フィルムは接合対象の柔軟性や通気性を損なわない。(a)エタノールの揮発を利用した接合技術のプロセス図(左)。接合を行った電極フィルムの断面走査顕微鏡(SEM)画像(右)。(b)接合を行った電極フィルムを500μmの曲率半径を持つ表面に載せて高い密着性を示す様子。パリレン:高分子材料の一種。化学気層堆積法によって良質の均一薄膜が形成できる。生体適合性に優れているため、さまざまな生体・医療用途に応用されている。(c)本フィルムの水蒸気透過性グラフ。医療用フィルムより高い透過率を示している。

電気的特性の評価では、500%以上の引張ひずみを加えた状態や1,000回の繰り返し伸縮後においても、厚み方向の電気抵抗の変化はわずかであり、高い導通安定性が確認されました(図3a)。また、200μm間隔の電極間における絶縁性も維持されました(図3b)。

伸縮に強い電気的特性の図

図3 伸縮に強い電気的特性

本フィルムは、伸縮によっても導電特性を損なわず200μmの配線間隔においても絶縁性を維持する。(a)引張時の厚み方向の電気抵抗グラフ(左)。1,000回の伸縮サイクル後の厚み方向の電気抵抗グラフ(右)。(b)200μmの配線間隔を設けて配線フィルムを接合した様子(左)。配線フィルム間に電圧を印加時の電流特性グラフ(右)。

最後に、本フィルムの有用性を実証しました。配線ピッチ500μmの伸縮配線基板上に発光素子を実装したところ、基板全体を500%引き伸ばした状態でも断線や短絡を起こさず、安定した発光を維持しました(図4a)。また、伸縮配線同士を本フィルムにより手首皮膚上で実装したところ、手首の運動下でも正常に動作することを確認しました(図4b)。

伸縮環境での低負荷接合実証の図

図4 伸縮環境での低負荷接合実証

本フィルムは伸縮環境においての接合時にも安定した導電性と絶縁性を維持し、手首皮膚上での接合を実現した。(a)本フィルムにより伸縮配線フィルム上に発光素子を接合した模式図と実際のサンプル(左)。接合したサンプルを伸縮させた様子(右)。(b)手首皮膚上で伸縮配線フィルム同士を接合した様子(左)。接合したサンプルを手首皮膚上で伸縮させた様子。引張時にも発光が維持されている。(右)。

今後の期待

本研究では、金属ナノワイヤ/エラストマー複合構造と揮発性液体による接合技術を組み合わせることで、熱や圧力を加えずに接合できる伸縮性・通気性を備えたACFを実現しました。この実装技術により、皮膚などの複雑かつ繊細な生体表面において、超薄型センサーなどの電子部品を直接集積・配線することを可能にします。従来の剛直で通気性がない接合部による負荷やかぶれを解消し、日常生活下で違和感なく生体データを連続取得できる次世代のウェアラブルデバイスや、大きなひずみ下でも破損しないソフトロボットの回路実装に貢献する成果です。

今後は、金属ナノワイヤの自己組織化技術の導入などによる配線パターンの高密度化や微細化を進めるとともに、導電材料やエラストマーの改良によって生体親和性および耐環境性のさらなる向上を図ります。医療・ヘルスケア分野における長期モニタリングシステムをはじめ、人工皮膚や生体埋め込み型医療デバイスなど、柔軟な生体とエレクトロニクスがシームレスに融合した先進デバイスへの幅広い応用展開が期待されます。

補足説明

  • 1.異方性導電フィルム(ACF)
    厚み方向などの特定方向のみに電気を通し、それ以外の方向には絶縁性を保つ接続フィルム。ACFはAnisotropic Conductive Filmの略。
  • 2.金属ナノワイヤ
    直径がナノメートルスケールの極めて細い金属の線状素材。
  • 3.エラストマー
    ゴムのように柔軟で、外力を加えて引き伸ばしても元に戻る弾性を持つ高分子材料。
  • 4.引張ひずみ
    部材に引張力が作用するときに発生する「ひずみ」。
  • 5.水蒸気透過率
    気体状態の水分(水蒸気)が材料を通り抜ける度合いを示す数値。フィルムの蒸れにくさや通気性の指標となる。

共同研究グループ

理化学研究所 創発物性科学研究センター
創発ソフトシステム研究チーム
研究員 李 成薫(イ・ソンフン)
(開拓研究所 染谷薄膜素子研究室 研究員、東京大学 大学院工学系研究科 特定客員准教授)
チームディレクター 染谷 隆夫(ソメヤ・タカオ)
(開拓研究所 染谷薄膜素子研究室 主任研究員、東京大学 大学院工学系研究科 教授)
大学院生リサーチ・アソシエイト 片山 俊平(カタヤマ・シュンペイ)
(早稲田大学 大学院創造理工学研究科 総合機械工学専攻 博士課程3年)
研修生 茂原 知輝(シゲハラ・トモキ)
(早稲田大学 大学院創造理工学研究科 総合機械工学専攻 修士課程1年)
物質評価支援チーム
チームディレクター 橋爪 大輔(ハシヅメ・ダイスケ)
専門技術員 井ノ上 大嗣(イノウエ・ダイシ)

早稲田大学 大学院創造理工学研究科 総合機械工学専攻
教授 梅津 信二郎(ウメヅ・シンジロウ)

研究支援

本研究は、理研大学院生リサーチ・アソシエイト制度の支援を受けて実施し、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業国際共同研究加速基金(国際先導研究)「全身電子皮膚による人間のデジタル化(研究代表者:染谷隆夫、JP22K21343)」、同基盤研究(B)「究極的な皮膚一体型伸縮性センシング・刺激システム(研究代表者:李成薫、JP24K02989)」の助成を受けて行われました。

原論文情報

  • Shumpei Katayama, Lulu Sun, Tomoki Shigehara, Daishi Inoue, Daisuke Hashizume, Shinjiro Umezu, Kenjiro Fukuda, Sunghoon Lee, Takao Someya., "Gas-permeable and stretchable nanoscale anisotropic conductive film for room-temperature, pressure-free interconnections", Science Advances, 10.1126/sciadv.aeh6203

発表者

理化学研究所
創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チーム
研究員 李 成薫(イ・ソンフン)
(開拓研究所 染谷薄膜素子研究室 研究員)
チームディレクター 染谷 隆夫(ソメヤ・タカオ)
(開拓研究所 染谷薄膜素子研究室 主任研究員)

李 成薫の写真 李 成薫
染谷 隆夫の写真 染谷 隆夫

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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