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研究最前線 2026年10月2日

AIとスパコンで迫る天の川銀河の進化

さまざまなものが複雑に絡み合った私たちの世界では、どの現象においても過去を知り、未来を予測することは容易ではありません。その難題を解決しようと、平島 敬也 基礎科学特別研究員は、スーパーコンピュータ「富岳」を用いてAIを融合した世界最高レベルの能力を誇るシミュレーションコード「ASURA-FDPS-ML」を開発しました。最初の実践例として取り組んだテーマは宇宙です。約3,000億個の星一つ一つまで分解できるほどの高解像度で、天の川銀河の進化の一端を再現することに成功し、世界の注目を集めました。汎用性にも優れ、幅広い分野に利活用されることが期待されています。

平島 敬也の写真

平島 敬也(ヒラシマ・ケイヤ)

数理創造研究センター 数理基礎部門 基礎科学特別研究員

複雑な計算の高速化を実現する「サロゲート・モデル」

銀河は、太陽のような「星」、星のもととなる「ガス」、正体は謎だが存在が信じられている「ダークマター(暗黒物質)」という、主にこの三つの要素で構成されている。これらの成分が相互作用しながら、銀河の形成や進化は進んでいく。そこに影響を与えるものの一つが、質量の大きな星の一生が終わるときに起きる「超新星爆発」だ。膨大なエネルギーを放出することで、周囲のガスを加熱・かく乱すると同時に、酸素(O)や炭素(C)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)といった天体や生命の起源に関わるさまざまな元素を放出し、銀河全体に蓄積させていく(図1)。

超新星爆発による銀河内でのガスの循環の図

図1 超新星爆発による銀河内でのガスの循環

超新星爆発によって酸素(O)や炭素(C)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)といった天体や生命の起源に関わる元素が放出される。Kは絶対温度の単位のケルビン。
背景画像は©The Hubble Heritage Team(AURA/STScI/NASA)、星形成領域の画像は©NASA、ESA、CSA、and STScI

銀河の進化を知る上でとりわけ重要なのは、超新星爆発の衝撃波によるガスの膨張の複雑なプロセスの再現だ。これまで、スーパーコンピュータを用いた大規模計算により、銀河内の星の軌道やガスの構造進化を追跡するシミュレーションが行われてきた。しかし、超新星爆発の規模は100光年程度なのに対し、天の川銀河の直径は約10万光年とスケールが大きく異なる。しかも場所によってガスや物質の密度・温度の違いが極めて大きい銀河空間で超新星爆発を一つ一つ再現するとなると、計算量が膨大になるため最新のスーパーコンピュータを用いたとしても従来の手法でのシミュレーションは現実的に困難だった。

この課題を解決するために平島 基礎科学特別研究員が活用したのは「サロゲート・モデル」というAIを用いた高速化の手法だ。サロゲートには代理という意味があり、天文分野にこの手法を持ち込んだのは初の試みだった。

銀河が形成されていく過程をシミュレーションしていくと、実際の宇宙と同様に多数の超新星爆発が起きる。あまりにも膨大な計算処理をどのように効率的に行うか。今回用いた方法では、このうちガスの高密度領域で起きた超新星爆発のみを検出した後、AIを担当する計算ノード※に送信し、衝撃波やガスがどのように広がっていくかなどを予測する。その予測結果がシミュレーション全体を担当する計算ノードに返送されていく(図2)。このAIモデルを銀河形成シミュレーションに組み込むことで、高速かつ精度の高い予測によって計算効率を改善し、従来の最大20倍程度の高速化を実現した。

  • ※ノード:「結び目」を意味する単語で、システムを構成するコンピュータの管理単位を指す。「富岳」だと約16万個の計算ノードがある。
AIを統合した新しいシミュレーションコードのフレームワークの図

図2 AIを統合した新しいシミュレーションコードのフレームワーク

銀河の進化を計算するMainノードから、ガスの高密度領域で起きた超新星爆発現象のみを別のPoolノードに送信。処理後にMainノードに戻る。画像は©NASA/JPL-Caltech/R. Hurt(SSC/Caltech)

新手法で星一つ一つを再現

このシミュレーションコードの妥当性を検証するため、天の川銀河に対して銀河としては大きさと質量が小さい「矮小銀河」のモデルを用いて、従来のシミュレーションと、サロゲート・モデルを用いたシミュレーションによる結果を比較した(図3)。サロゲート・モデルを用いた場合でも、超新星爆発の後に残る大規模なバブル構造やガスの流れなどが従来手法の結果とほぼ合致したほか、従来8カ月程度かかっていた銀河進化の計算を約2カ月で完了し、サロゲート・モデルが高速化と物理的に妥当な計算を両立できることを示した。

サロゲート・モデルを用いた新手法の検証の図

図3 サロゲート・モデルを用いた新手法の検証

開発したシミュレーションコードによる矮小銀河の姿(右)。渦の様子やバブル(黒い部分)などで従来のシミュレーション(左)と同様の結果を導き、確からしさを証明した。©︎Keiya Hirashima

次に、太陽系が存在する天の川銀河のように、数千億個の天体が存在する銀河の進化を再現するため、計算規模を拡大し、シミュレーションを行うためのさらなるアップデートにも成功した。具体的にはシミュレーションコード「ASURA-FDPS-ML」に「富岳」向けの最適化を施し、「富岳」全系を用いて実行することで、従来の100倍以上も高解像度化し、星一つ一つの振る舞いまで浮き彫りにしながら追跡する。

さらに、このアップデートでは、GPU(画像処理装置)を搭載した東京大学情報基盤センターと筑波大学計算科学研究センターが共同運営するスパコン「Miyabi(みやび)」を用いたシミュレーションでも高い効率化を示した。「富岳」向けの最適化にとどまらず、他の計算システムにも成果を広げた。

今後は、このシミュレーションコード「ASURA-FDPS-ML」を用いて天の川銀河で起きているさまざまな元素の成り立ちやその後の動きなどを再現し、欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げた天文観測衛星「Gaia(ガイア)」などの観測データと比較しながら、どのようにして星や太陽系などが形づくられてきたのかを化学的かつ力学的な視点で解明することを目指している。「生命のもととなる元素が、銀河のどこで、いつ生成され、運ばれてきたのか。人類が長年抱き続けてきた根源的な問いに答えを出すのが夢です」

材料開発、気候変動など応用範囲は無限に

平島 基礎科学特別研究員は、米国と日本を行き来する新進気鋭の若手研究者だ。大学3年生のときに受けたコンピュータサイエンスの講義で、温度変化によって鉄が磁石になるプロセスをシミュレーションする課題が与えられた。折しも「富岳」が近く稼働する見通しとなっていた。大学院への進学を考えていたころに、天文学の分野でも大規模シミュレーションが活発に実施されていると知り、銀河に焦点を当てた研究を志した。

今回、開発したシミュレーションコードは世界のライバルの耳目を集めている。同じように時間と空間のスケールが大きくて多数の要素が関係する気候変動や核融合プラズマ、さらに品質の高い材料開発、航空機などが超音速で飛ぶことで生じる衝撃波の解析などにも応用できる可能性があるからだ。

時々刻々と進化しているAIに、一人一人の研究者はどのように向き合っていくのか。「AIはパソコン1台あれば簡単に使え、科学を始めるためのハードルを下げたのは確かです。研究活動においても非常に便利なツールとなりました。人々がAIを使うようになった世界では、作業コストが著しく減るので、研究者自身の知識や経験の多様性が相対的に重要になってくると思います」

AIを科学研究に組み込む「AI for Science」という潮流のなかで、AIと科学者との新たな関係が科学の進化を加速させている。科学の可能性を切り拓く、研究者たちの挑戦から目が離せない。

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星

回答ありがとうございました。

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