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2025年12月10日

理化学研究所

アンドロイドの表情模倣が共感ホルモンの分泌を促す

-ヒトとの心の絆を生み出すロボット開発に期待-

理化学研究所(理研)情報統合本部 ガーディアンロボットプロジェクト 心理プロセス研究チームのジュンティン・シュ 研究員、佐藤 弥 チームディレクターらの研究チームは、ロボットの一種であるアンドロイド[1]がヒトの表情を模倣(表情模倣)することで、模倣されたヒトのオキシトシン[2]の分泌を高め、ヒトに共感を生み出すことを発見しました。

本研究成果により、アンドロイドが、介護や教育、医療、接客などの分野において、単なる機械的な存在を超えた社会的な絆を生み出す新たなパートナーとなることが期待されます。

今回、研究チームは、実験参加者計118人を対象として、二つの実験を実施しました。実験参加者は、演技課題として感情的なシナリオに基づいた表情とセリフの演技を審査員に披露し、審査員は実験参加者の演技を審査します。審査員が表情模倣を行うかどうかによって、参加者の心理的・生理的反応を比較しました。第1の実験の審査員はヒトで、第2の実験の審査員は理研が開発したアンドロイド「Nikola(ニコラ)[1]」です。その結果、表情模倣を行う場合は、審査員がヒト、アンドロイドのいずれであっても、表情模倣を行わない場合と比べ、実験参加者の共感性に関する主観評定、実験参加者の唾液中オキシトシン濃度のいずれも高いものとなっていました。オキシトシン濃度の上昇は、ヒトに共感が生み出されることを示しています。

本研究は、科学雑誌『Computers in Human Behavior Reports』オンライン版(12月1日付)に掲載されました。

ヒト(実験参加者)の表情とそれを模倣するアンドロイド「二コラ」の表情の図

概要図:ヒト(実験参加者)の表情(左)とそれを模倣するアンドロイド「二コラ」の表情(右)

背景

ヒト同士のコミュニケーションにおいて、表情やしぐさを模倣する(まねる)表情模倣は、言葉を超える感情を伝える手段として有効で、相手に対する共感や親近感を生み出し、ヒトに幸福感を感じさせます。こうした表情模倣は、相手との心理的距離を縮め、信頼関係を築いて、ヒトと社会との接着剤としての役割(社会的結合)を果たすと考えられています。

しかし、現代社会では高齢化や核家族化、孤立化の進行により、人間関係が希薄になり、社会的結合による幸福感を感じられないヒトが増えつつあります。こうした課題に対し、共感的な振る舞いを示すアンドロイドがヒトの感情に寄り添い、社会的結合を生み出す新たな支援の形として注目されています。

本研究では、アンドロイドがヒトの表情を模倣することで、どのようにヒトの心に影響を与えるのか、またその生理的な反応として共感ホルモンと呼ばれるオキシトシンがどのように変化するのかを、科学的に検証しました。

研究手法と成果

研究チームは、20~30代の118人を対象に、二つの実験を実施しました。ホルモンには性差があることが知られているため、実験参加者は女性のみとしています。実験参加者は、演技課題として各種の感情的なシナリオ(実験で使用した感情的なシナリオは、寺院の美しい庭園でお茶とお菓子をいただきながらお坊さんに声をかけるシーン、引っ越し先のアパートで深夜に上の階の住人がうるさくて眠れないシーンなど)に基づいた表情とセリフを審査員に5秒間披露し、審査員が表情模倣を行うかどうかによって、実験参加者の心理的・生理的反応を比較しました。一つの感情的シナリオを1試行とし、審査員1は全試行のうち20%で表情模倣し、審査員2は全試行の80%で表情模倣しました。この実験を、第1の実験の審査員はヒトで、第2の実験の審査員は理研が開発したアンドロイド「Nikola(ニコラ)」で行いました(図1)。二コラは、脳科学研究の知見に基づいたミラーニューロンシステム[3]の計算回路が実装されており、ヒトのように表情模倣することができます(概要図参照)。

アンドロイドの二コラが審査員となる実験2の流れの図

図1 アンドロイドの二コラが審査員となる実験2の流れ

実験参加者は、審査員(二コラ)の前で感情的なシナリオの演技をした。実験室内には審査員1(全試行のうち20%で表情模倣、模倣ナシ)と審査員2(全試行のうち80%で表情模倣、模倣アリ)の2名の審査員がおり、実験参加者は審査員1との実験が終わってから審査員2との実験を行った。図は先に模倣ナシ条件を実施するバージョンを示しており、実験参加者の半数では先に模倣アリ条件を実施した。ヒトが審査員となる実験1の場合も同じ流れで実験を行った。

その結果、以下のような成果が得られました:

  • 実験1でヒトの審査員に表情模倣された場合、審査員に対して「共感する」といった主観的評価が高まり、唾液中のオキシトシン濃度も上昇しました(図2左)。
  • 実験2でアンドロイドの二コラの審査員に表情模倣された場合にも、審査員に対して「共感する」といった主観的評価が高まり、唾液中のオキシトシン濃度が上昇しました(図2右)。

これらの結果は、アンドロイドの二コラが単に感情を表現するだけでなく、ヒトの感情に応答し、共感を生み出す存在となり得ることを示しています。

ヒトとアンドロイドによる模倣に対する「共感」とオキシトシン濃度の変化の図

図2 ヒトとアンドロイドによる模倣に対する「共感」とオキシトシン濃度の変化

(左)実験1でヒトの審査員が実験参加者の表情模倣した結果、主観的共感が高まり、オキシトシン濃度も上昇した。(右)実験2で審査員のアンドロイド「二コラ」が実験参加者の表情模倣したときにも、主観的共感が高まり、オキシトシン濃度も上がった。「*」は有意水準5%での有意差ありを示す。

今後の期待

本研究は、アンドロイドがヒトの感情に応答し、共感を生み出す存在となり得ることを、主観的評価とホルモン指標の両面から科学的に示した世界初の試みです。

今後、アンドロイドを用いた感情コミュニケーションの研究がさらに進むことで、心理学や神経科学の分野における新たな知見が得られるとともに、実社会における応用も期待されます。例えば、介護の現場では、共感的な振る舞いが高齢者の安心感やストレス軽減につながることが知られており、人手不足が深刻化する中で、アンドロイドがその一助となる可能性があります。

また、教育や医療、接客などの分野でも、感情を理解し共感を寄せるロボットが、ヒトとの信頼関係を築くパートナーとして活躍する未来が現実味を帯びてきました。ヒトとロボットが心を通わせる社会の実現に向けて、本研究は大きな一歩となるでしょう。

補足説明

  • 1.アンドロイド、Nikola(二コラ)
    アンドロイドとは、人型ロボットの中でも、特に人の外見に似たロボットのこと。Nikola(二コラ)とは、理研ガーディアンロボットプロジェクトが、ヒトの解剖学・心理学の知見に基づいて開発したアンドロイド。人のような外見の顔を持ち、ヒトのような表情表出ができることが実証された世界で唯一の研究プラットフォームとなっている。二コラは大阪・関西万博でも展示され、人気を博した。
  • 2.オキシトシン
    脳の下垂体から分泌されるホルモンで、共感や信頼や愛情に関わり、共感ホルモンと呼ばれる。オキシトシン濃度の上昇は、ヒトに共感が生み出されていることを示す。
  • 3.ミラーニューロンシステム
    他者の運動の実行の観察と、自分の運動の実行のどちらでも活動する神経細胞のネットワーク。

研究チーム

理化学研究所 情報統合本部 ガーディアンロボットプロジェクト
心理プロセス研究チーム
研究員 ジュンティン・シュ(Chun-Ting Hsu)
テクニカルスタッフⅠ 下川 航(シモカワ・コオ)
チームディレクター 佐藤 弥(サトウ・ワタル)
インタラクティブロボット研究チーム
チームディレクター 港 隆史(ミナト・タカシ)

原論文情報

  • Hsu, C.-T., Minato, T., Shimokawa, K., & Sato, W., "Receiving Human and Android Facial Mimicry Induces Empathic Experiences and Oxytocin Release", Computers in Human Behavior Reports, 10.1016/j.chbr.2025.100895

発表者

理化学研究所
情報統合本部 ガーディアンロボットプロジェクト 心理プロセス研究チーム
研究員 ジュンティン・シュ(Chun-Ting Hsu)
チームディレクター 佐藤 弥(サトウ・ワタル)

佐藤 弥 チームディレクターの写真 佐藤 弥

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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