理化学研究所(理研)開拓研究所 坂井星・惑星形成研究室のチャン・ジウェイ 基礎科学特別研究員、坂井 南美 主任研究員、国立天文台 水沢VLBI観測所の廣田 朋也 准教授らの国際共同研究グループは、アルマ望遠鏡(ALMA)[1]を用いて、若い大質量原始星[2]Orion Source Iの周囲から一酸化チタン(TiO)の電波放射を検出しました。
本研究成果は、星や惑星が形成される高温環境において鉱物がどのように蒸発・変化するのかを天文観測から探る新たな手掛かりになるとともに、地球のような岩石惑星を構成する固体物質の形成過程や、初期太陽系における高温物質の形成過程を理解することに貢献すると期待されます。
今回、国際共同研究グループは、ALMAを使い、Orion Source Iの周囲からTiOを検出しました。チタンは通常、宇宙空間では鉱物などの固体物質に取り込まれているため、検出されたTiOは、原始星近傍の高温環境で鉱物から気相へと放出されたチタンに由来すると考えられます。実際にTiOは、原始星を取り巻く円盤から噴き出す「円盤風」に沿って特に強く検出されました。
本研究は、科学雑誌『The Astrophysical Journal Letters』オンライン版(10月23日付)に掲載されました。
大質量原始星を取り巻く円盤と円盤風、鉱物由来の分子の分布の模式図
背景
私たちの身の回りにある岩石や、地球のような岩石惑星の材料は鉱物です。鉱物のもととなる元素は星の内部で生成され、星の進化に伴うガスや塵の放出、あるいは超新星爆発によって宇宙空間へと供給されます。そのうち、チタンやアルミニウム、ケイ素といった揮発しにくい元素は、温度が下がる過程で固体に取り込まれ、宇宙空間で微粒子(星間塵(せいかんじん))を形成します。こうして形成された星間塵はガスとともに星間雲を形作り、この星間雲が重力によって収縮することで、次世代の星や惑星が誕生します。
一方、誕生したばかりの星の近傍は非常に高温になるため、星間塵を構成する鉱物成分が蒸発し、一度気体となって放出された後、温度が低下するにつれて再び固体として凝縮(再凝縮)すると考えられています。このような蒸発と再凝縮の過程は、岩石惑星の材料がどのように形成されたのかを解明する上で極めて重要です。特に、太陽系形成初期の高温環境で形成されたと考えられている太陽系最古の固体物質であるCAI(カルシウム・アルミニウムに富む包有物)[3]は、どこでどのような過程を経て形成されたのか、その詳細はまだ明らかになっていません。そのため、若い星の周囲で鉱物成分の蒸発と再凝縮がどのように起きているのかを明らかにすることが、CAIの起源を理解する上で重要です。
しかし、原始星において鉱物成分が実際にどこで蒸発し、その成分がどのように気体となっているのかは、遠く離れた地球からの天文観測で捉えることは困難でした。そこで国際共同研究グループは、鉱物を構成する元素の中でも特に揮発しにくい元素の一つであるチタンに着目し、気体の一酸化チタン(TiO)を手掛かりに、星・惑星形成の現場で起きる鉱物成分の蒸発を捉えることに挑みました。
研究手法と成果
国際共同研究グループは、地球から約1,350光年離れたオリオン座の大質量原始星Orion Source Iを、アルマ望遠鏡(ALMA)で観測したデータ(ALMAデータ)を解析しました。Orion Source Iは太陽の約10倍程度の大きな質量を持つ原始星で、その周囲には半径数十天文単位(1天文単位は地球と太陽の平均距離)の円盤があり、円盤からは回転しながらガスが噴き出しています(図1)。このような原始星の近くの高温領域では、通常は星間塵の鉱物成分である難揮発性元素が気相へ放出されると考えられます。
図1 原始星円盤と一酸化チタン・一酸化ケイ素の分布を表すイメージ図
Orion Source I原始星の周囲には円盤(青)があり、円盤からは一酸化ケイ素(オレンジ)を含むガスが回転しながら噴き出していることが知られている。真横を向いた円盤の根元付近から一酸化チタン(赤)が気化して噴き出している様子を捉えることに成功した。
国際共同研究グループは、ALMAデータにおいてTiOが放つ電波を探索した結果、サブミリ波(波長0.1~1mm)帯から、3本の一酸化チタン(TiO)の回転スペクトル線[4]を検出しました。さらに、それぞれの電波が放射される場所や、ガスの運動速度を比較することで、いずれもTiOによる放射であることを確認しました。
また、原始星からおよそ50~100天文単位以内にTiOの放射は集中していました。さらに、ガスの速度は観測する位置によって数十km/sの範囲で規則性をもって変化しており、円盤そのものよりも、円盤から回転しながら噴き出す「円盤風」の根元付近にTiOが多く存在することが示されました(図2上)。さらに、TiOは、過去に検出した一酸化アルミニウム(AlO)注)とよく似た領域に分布していることが分かりました(図2下)。チタンとアルミニウムはいずれも非常に揮発しにくく、CAIの主要な構成元素でもあります。今回TiOが新たに検出できたことで、CAIを特徴づけるこれら2種類の元素をそれぞれ含む分子が、若い星の周囲の高温領域でよく似た分布で観測されたことになります。これにより、これまで太陽系の隕石(いんせき)などを手掛かりに研究されてきたCAIの形成につながる高温での鉱物の蒸発・再凝縮過程を、実際の星形成領域の観測から探ることが可能になりました。
図2 原始星を取り巻く円盤近傍で検出された一酸化チタン、一酸化アルミニウムの分布と動き
- (上)Orion Source I原始星を取り巻く円盤近傍で検出された一酸化チタン(TiO)の分布と動き。
- (下)国際共同研究グループのメンバーが過去に検出した一酸化アルミニウム(AlO)の分布と動き。
- (上、下)左の図は分子の分布に対応した電波の強さ、右の図は分子ガスの視線方向の速度を示す。中央の緑の等高線は塵(ちり)の分布で、原始星周りの円盤を真横から捉えている。全てALMAで観測されたデータを解析したものであり、左下の楕円(だえん)は観測の分解能を示す。右の図で円盤の両側に青と赤の領域が分かれていることは、ガスの回転を示している。両者(TiO、AlO)の分布と速度構造はよく似ており、TiOが回転する円盤から噴き出す円盤風の根元に存在することを示唆する。1auは1天文単位(地球と太陽の平均距離)。
さらに、検出した3本のTiOの回転スペクトル線の強度から見積もったTiOの存在量を、SiO(一酸化ケイ素)の存在量と比較したところ、TiO/SiO比は約1.3%でした。これは、太陽系の始原的な元素組成におけるチタンとケイ素の元素比(約0.25%)の約5倍に相当します。この結果は、非常に揮発しにくいチタンが、原始星近傍の高温環境では効率よく気相へ移っていることを示唆します。ただし、SiOとの比較には観測条件の違いなどに起因する不確かさがあり、1.3%という値は上限値と考える必要があります。
以上の結果から、Orion Source Iの円盤風の根元付近では、星間塵を構成する鉱物が加熱によって蒸発し、そこに含まれていたチタンやアルミニウムなどの難揮発性元素が気体として存在していると考えられます。特に、非常に揮発しにくいチタンを含むTiOがAlOと円盤風の根元付近の同じ領域で検出されたことは、星・惑星形成の現場で鉱物が蒸発していることを示す重要な観測的証拠です。また、TiOとAlOが分布するこの領域が、鉱物の蒸発と再凝縮へとつながる過程を調べる上で重要な場所であることが示されました。
- 注)2019年4月25日プレスリリース「巨大原始星の周りにアルミニウムを含む分子を発見」
今後の期待
今回、若い大質量原始星の周囲でTiOが初めて検出され、鉱物を構成する難揮発性元素が気体として存在する場所を特定し、詳しく調べられるようになりました。今後、TiOやAlOに加え、カルシウムなどほかの難揮発性元素を含む分子ガスを探索し、それぞれがどの温度・場所で存在するかを明らかにすることで、星・惑星形成に伴う鉱物の蒸発から再凝縮までの過程を追跡できると期待されます。
特に、今回そろって観測されたチタンとアルミニウムは、太陽系最古の固体物質であるCAIを特徴づける元素です。今後、形成段階や質量の異なるさまざまな原始星について同様の観測を進めることで、CAIのような高温で形成される固体物質が、どのような環境で、どのような過程を経て生まれるのかを、隕石や小惑星から得られた試料の分析だけでなく、現在進行している星形成現場での天文観測からも探ることができると期待されます。
補足説明
- 1.アルマ望遠鏡(ALMA)
南米チリの標高約5,000メートルのアタカマ砂漠に設置された電波干渉計。66台のアンテナを組み合わせ、ミリ波・サブミリ波と呼ばれる電波を高い感度と空間分解能で観測する。日本を含む国際協力によって運用されている。 - 2.原始星
星間雲の中でガスや塵が重力によって集まり、形成されつつある若い星のこと。周囲の物質を取り込みながら成長しており、その周囲にはガスや塵から成る円盤(原始星円盤)が形成される。太陽程度の質量の星の場合には、この円盤はやがて回転によって支えられた原始惑星系円盤となり、地球のような惑星が形成される場所となる。 - 3.CAI(カルシウム・アルミニウムに富む包有物)
炭素質コンドライトと呼ばれる始原的な隕石中に見つかる、カルシウム(Ca)やアルミニウム(Al)、チタン(Ti)などの難揮発性元素に富む白色の包有物(鉱物の集合体)のこと。ヒボナイト(CaAl12O19)、ペロブスカイト(CaTiO3)、スピネル(MgAl2O4)、メリライト(Ca2MgSi2O7-Ca2Al2SiO7)など、高温で形成される鉱物から構成される。約45.67億年前に形成されたことが分かっており、「太陽系最古の固体物質」として、太陽系誕生直後の高温環境を知る重要な手掛かりとして注目されている。CAIはcalcium-aluminium-rich inclusionの略。 - 4.回転スペクトル線
気体中の分子が回転運動の状態を変える際に、特定の周波数で放射または吸収される電波のこと。その周波数の組み合わせは分子ごとに異なるため、宇宙空間にどのような分子が存在するかを特定する「指紋」として利用されている。
国際共同研究グループ
理化学研究所 開拓研究所 坂井星・惑星形成研究室
基礎科学特別研究員 チャン・ジウェイ(Ziwei Zhang)
主任研究員 坂井 南美(サカイ・ナミ)
スペイン国立研究評議会(CSIC)基礎物理学研究所
主任研究員 マルセリーノ・アグンデス(Marcelino Agúndez)
イタリア国立宇宙物理学研究所(INAF)アルチェトリ天文台
上級研究員 リンダ・ポディオ(Linda Podio)
主席研究員 クラウディオ・コデッラ(Claudio Codella)
国立天文台 水沢VLBI観測所
准教授 廣田 朋也(ヒロタ・トモヤ)
ほか、国内外の大学・研究機関の研究者13名
研究支援
本研究は、理研独創的研究提案制度および日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP26K17208、JP20H05844、JP20H05845、JP25H00676)による助成を受けて行われました。
原論文情報
- Ziwei E. Zhang, Nami Sakai, Marcelino Agúndez, Linda Podio, Claudio Codella, Tomoya Hirota, Adam Ginsburg, Brett McGuire, Nadia M. Murillo, Yuki Okoda, Yoko Oya, Giovanni Sabatini, Aki Takigawa, Kei E. I. Tanaka, Yichen Zhang, Qiuyi Luo, Yu Cheng, Izaskun Jiménez-Serra, Shogo Tachibana, "Dust-seeding Molecules in a Massive Protostar - Detection of TiO in Orion Source I", The Astrophysical Journal Letters, 10.3847/2041-8213/aeacbe
発表者
理化学研究所
開拓研究所 坂井星・惑星形成研究室
基礎科学特別研究員 チャン・ジウェイ(Ziwei Zhang)
主任研究員 坂井 南美(サカイ・ナミ)
国立天文台 水沢VLBI観測所
准教授 廣田 朋也(ヒロタ・トモヤ)
チャン・ジウェイ
坂井 南美
発表者のコメント
TiOやAlOのような難揮発性分子は、惑星の材料となる星間塵の形成の種となる分子です。こうした分子を調べることで、原始星の周囲で鉱物が蒸発する高温領域の温度や密度などの物理環境、鉱物が蒸発・再凝縮する条件を探ることができます。さらに、若い星の周囲で観測される分子と、隕石に残された太陽系最古の固体物質とを結び付けることで、CAIのような物質がどのような環境で形成されるのか、さらに惑星をつくる物質が生まれる最初期の過程を明らかにしたいと考えています。(チャン・ジウェイ)
星や惑星が生まれる領域では、これまで気体中の分子を観測することで、物質の化学進化を詳しく調べてきました。一方、地球のような惑星を実際につくるのは、鉱物を含む固体物質です。今回のTiOの検出は、分子を手掛かりとして、これまで天文学では捉えることが容易ではなかった鉱物の変化を追跡できることを示しています。天文学で観測する若い星の周囲の物質と、隕石に残された太陽系形成時の物質を、気体と固体の変化を通して結び付けることで、星間物質が星・惑星形成の過程でどのように受け継がれ、また再加工されていくのかを探っていきたいと考えています。(坂井 南美)
報道担当
理化学研究所 広報部 報道担当
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国立天文台 水沢VLBI観測所 広報担当 小澤友彦
Tel: 0197-22-7111(代表)
Email: ozawa.tomohiko@nao.ac.jp
