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RIKEN People 2026年5月25日

実験の「わくわく」を原動力に、化学と生物学を融合する

環境資源科学研究センターは、生物や化学の力を利用した環境負荷の少ないモノづくりや環境ストレスに強い植物の開発などを通じて、地球環境、生態系、自然資源などの「グローバル・コモンズ(人類の共有財産)」の維持への貢献を目指しています。この地球規模課題に挑む研究センターを率いるのが、袖岡 幹子 センター長です。有機合成化学と生物学を融合した研究分野「ケミカルバイオロジー」の第一線で活躍し、その実績により2024年4月に紫綬褒章を受章しています。

袖岡 幹子の写真

袖岡 幹子(ソデオカ・ミキコ)

環境資源科学研究センター センター長

「薬はなぜ効くのか」という問い

「薬剤師の免許を持っていれば、困ることはないかな」。最初はそのくらいの動機だった。高校生のとき、化学や生物が好きだったこともあって薬学部へ進んだ。

転機は修士課程を終えて就職した相模中央化学研究所で訪れた。熱い思いを持った同世代の研究者が集い、わくわくするサイエンスが展開されていたのだ。「ここで初めて、研究者としてやっていきたいという思いが強くなりました」

研究の方向性を決定づけたのも、この時期の出来事だ。血管を拡張させる化合物の誘導体を合成中、急に顔が真っ赤になった。明らかに化合物に対する反応だったが、手袋などで防護は万全で、万が一顔に付着したとしてもごくごく微量なはずだ。「これほど劇的な作用を及ぼすのはどういうメカニズムなのだろう。それを知りたい!」自ら体感した驚きが、化学と生物学を融合させる原動力となった。

理研の「垣根の低さ」から生まれた新技術

その後、北海道大学、米国ハーバード大学、東京大学、東北大学と研究の場を移していく中で、有機合成化学から生物学の領域へと足を踏み入れていった。ただ、1990年代当時は世界的にも「ケミカルバイオロジー」という研究分野は一般的でなく、「両方を研究する環境づくりは難しかったですね」と振り返る。

そのような状況の中、2004年に理研で研究活動を開始。理研はまさに「科学者の楽園」だった。「ケミカルバイオロジーの先駆者がいた上、研究室間の垣根がすごく低く、多種多様な分野の研究者同士がつながっていたのです」

そこで一つの象徴的な成果が生まれた。細胞内の分子の動きを知るには、それまでは蛍光物質を分子に結合させて観察する方法が主流だったが、観察対象の分子よりも蛍光物質が大きすぎて観察がうまくいかないという課題があった。

着目したのは、物理学の領域であるラマン分光法だ。調べるうちに、専門家が向かいの建物にいることが判明。すぐに共同研究を提案し、さまざまな細胞内の分子を生きたまま可視化できる画期的なラマンイメージング技術の開発に結びついた。「理研に来ていなかったら、実現できていませんでしたね」と振り返る。

「生物活性分子」を軸とした三つの柱

有機合成化学を出発点とし、生体に何かしら作用する生物活性分子が「体内でどう効くのか」という問いを追求し続けてきた袖岡 センター長は、研究の柱として三つのポイントを挙げる。

一つ目は、医薬品などに使われる分子を効率よくつくる触媒反応の開発。二つ目は、ユニークな活性を持つ新しい分子の創製。三つ目は、体内での分子の作用メカニズムの解明だ。「研究の幅が広いので、一言で説明できなくていつも困っています」と笑う。

実験の喜びを次世代へ

センター長としてマネジメント業務を担う現在だが、根っからの研究好きは変わらない。「皆さんの研究の話を聞くのが楽しみ」と、若手がわくわくして研究に取り組める環境づくりに喜びを見いだしている。

多忙な日々を支えるリフレッシュ法は、出張先などで仲間とおいしい食事やお酒を楽しむことだ。いいお店を発見したときの喜びは、実験のわくわく感とどこかつながっている。

次世代を担う若手には「自分がわくわくする研究を見つけて、それを楽しんでほしい」。1人でも多くの若者がサイエンスの面白さに気付き、実験の喜びを感じてくれることを願っている。

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