1. Home
  2. 広報活動
  3. お知らせ
  4. お知らせ 2026

2026年9月25日

理化学研究所

理化学研究所 科学講演会2026「ライフコース:めぐる生命(いのち)の不思議」を開催しました

2026年8月30日(日)、48回目となる科学講演会を、日本科学未来館の現地開催とオンライン配信で実施しました。今回のテーマは、生き物の発生から出生、成長、老化に至るまでを意味する「ライフコース」。理研では、個体としてだけでなく、世代を超えて生命がどう持続し変化していくのかを、科学として理解するための研究を進めています。理研の3名の研究者たちが、それぞれの取り組みを紹介しました。若い世代を中心に約130名が来場し、オンライン配信も約130名の視聴がありました。

ファシリテーターと講演者の写真

ファシリテーターと講演者

左からファシリテーターを務めた高橋 涼香 高度研究支援専門職、講演した井上 梓 チームディレクター、小幡 史明 チームディレクター、井上 貴美子 室長

「いのちをつなぐDNAの“付箋(ふせん)”」

井上 梓 チームディレクター( 生命医科学研究センター 疾患エピゲノム遺伝研究チーム)は、卵子形成の過程におけるエピゲノムの解明に取り組んでいます。エピゲノムとは、DNAやその周りのタンパク質につく化学的な飾りであり、ゲノムがDNA配列情報の書かれた「本」だとすると、エピゲノムはどこを読むべきかを指示する「付箋」であると説明しました。

最近の研究で、両親のゲノムが子に伝わるように、両親のエピゲノムの一部も子に伝わることが分かってきました。マウスを使った実験で、母親からのエピゲノムの伝達を妨げると、胎盤の形成に異常が起きること、父親からのエピゲノムの伝達を妨げると、誕生した新生児に発育不良が見られることを例に挙げ、両親のエピゲノムが受け継がれるおかげで受精卵が正常に発育できると話しました。「エピゲノムは環境や加齢の影響で変化する可能性があります。今後は、哺乳類において環境要因がどのように生殖細胞のエピゲノムに作用していくかを明らかにしたいと思っています」と語りました。

講演会に参加した高校と井上 梓チームディレクターの写真

講演会に参加した高校生(左右)に協力してもらいながら、DNAの模型を使って「付箋」の正体について解説する井上 梓チームディレクター(中央)

「ハエで『腹八分目』を科学する」

小幡 史明チームディレクター( 生命機能科学研究センター 栄養応答研究チーム)は、人間と共通の遺伝子を多く持つショウジョウバエを用いて、栄養が体に与える影響を研究しています。厚生労働省が示す「日本人の食事摂取基準」は健康な食生活の目安として有用ですが、「最適な食事」は人それぞれ異なり、それがどういったものなのかは理論として確立されていません。

小幡 チームディレクターの研究チームは、ショウジョウバエを使った実験で、若い時期に必須アミノ酸の一つであるメチオニンの摂取量を減らすと、産卵数は減ってしまう一方で、年をとっても元気で長生きすることを明らかにしました。「年齢とともにメチオニン制限に体が対応する力が弱まるため、若いときに腹八分目にしておくことが寿命を延ばすうえでは重要だと考えています」と説明し、早期ライフステージにおける栄養環境が寿命にどのような影響を及ぼすか、現在取り組んでいる研究も含めて紹介しました。

講演会中の小幡 史明チームディレクターの写真

「栄養に関する研究はまだまだ発展途上です。一杯のコーヒーを飲んだ後の体の反応ですら、複雑すぎて解明されていません」と説明する、小幡 史明チームディレクター

「1個の細胞から個体が誕生する?発生工学技術とは」

井上 貴美子 室長(バイオリソース研究センター 統合発生工学研究開発室)が所属するバイオリソース研究センターでは、マウスや植物、細胞、遺伝子、微生物といった実験に欠かせない研究材料を管理し、国内外の研究機関に提供しています。「なかでもマウスは約10,000種類以上が収集されており、世界第2位の規模を誇ります。これだけ多くのマウスをケージで飼育するのは難しい。そこで活躍するのが発生工学技術です」と井上 室長。直径わずか0.1mmほどのマウスの受精卵を、液体窒素で冷凍保存していると言います。また、多様なマウスを安定して維持するために、顕微授精技術や体細胞クローン技術を開発しており、「顕微鏡などの特殊な機械が必要です。両手でそれぞれレバーを操作し、時には足でもペダルを踏みながら、まるで千手観音のように作業します」と話しました。

井上 室長が改良に取り組む体細胞クローン技術は、1996年にイギリスで誕生したヒツジの「ドリー」でも知られ、その後20種ほどの哺乳類の誕生に成功していますが、現在でも出生率は20%にとどまると言います。この技術の実用化が進めば、バイオリソースを維持することはもちろん、盲導犬や警察犬といった特殊な能力を持つ伴侶動物の維持などにも繋がる可能性があると述べました。

講演会中の井上 貴美子 室長の写真

マウスの受精卵はストロー管のような小さな容器に入れて冷凍保存する。「1本のストロー管に100個程度まで保管できます」と話す、井上 貴美子 室長

最後に、高橋 涼香 高度研究支援職( 生命機能科学研究センター )の進行のもと、来場者と3名の研究者とのディスカッションを実施しました。会場からは、「今の研究テーマにたどり着いた経緯は?」「研究に行き詰ったときのリフレッシュ方法は?」など、さまざまな質問が寄せられ、和やかな雰囲気の中、研究者たちとのざっくばらんなやりとりに盛り上がりました。

アンケートには、「これだけ面白い研究が進んでいても人々の疑問は尽きることなく、それが解決されていないことを見ると、まだまだ研究の伸びしろがたくさんあるのだとますます興味が湧いた」「活躍している研究者の熱意、好奇心を感じて感動した」「同じ生命科学なのに遺伝子や環境、生物資源など、研究の切り口が皆さんいろいろで、とても興味深いなと思った。知らないことばかりで好奇心がくすぐられた」といった声が寄せられました。

会場からの質問に笑顔で答える研究者たちの写真

会場からの質問に笑顔で答える研究者たち

※講演会の様子は後日、YouTube「理研チャンネル」にてアーカイブ配信予定です。

関連リンク

Top